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2009年7月27日 (月)

まぁそげん、おちこまんと

 お弁当生活は、給食よりもマシという程度だった。
 前の学校では、月間献立表でカレーシチューやカレーうどんを指折り待った。だが、毎日の給食はそれほど楽しみではなかった。
 弁当になっても、状況は変わらない。
 専業主婦の母は、子どもの栄養価を考えて、おひたし、煮物、野菜をたくさん入れてくれた。
 だが、親の心子知らず。
 僕は卵焼き、ウィンナーソーセージがそのまんま、どーんと入った弁当が食べたかった。

 田舎には雑貨屋がある。
 田舎には雑貨屋しかない。
 スーパーは隣り町の青方まで行かなければない。
 食品、雑貨、お菓子・・いわゆるコンビニの昔版。それが雑貨屋。

 雑貨屋にはいつも、近所のおばちゃんがたむろしていた。
 漁師の母ちゃんは豪快だ。
 「今日はお前んとこは、なんか?うなぎ?また、なんばすっとか?」
 「おばば、おいに、こんちんぽばくれれ がはは」
 *おばさん、私にこの赤いウィンナーソーセージを売ってちょうだい ほほほ


 僕はいたたまれず、仮面ライダースナックを買うのを諦めて、店を出た。
 ちんぽばくれれと言ったのは、空手を習っているジャイアンの母ちゃん。
 ジャイアンの弁当は、クラスでただ一人ランチジャー。
 お昼になると、教室に棟梁が迷い込んだようで、格段に浮いていた。

ミッキーの弁当箱
イルカを食べたことがある


 五島列島は、当然だが、四方を海に囲まれている。
 しごく当然だが、海の幸が豊富である。
 なにせ、ひざまで海に浸かればウニが食べられる。

 子供の頃から、一日何時間でも図鑑でえび・かにを眺めて暮らしていた僕にとっては、楽園の・・・
はずだった。

 父は高校で教諭をしていて、その生徒の大半は漁師の子供である。
 すると、近所のご父兄が
 「先生、キスん釣れたよ」
 「先生、サザエんとれたよ」
 などと言って、とれたての魚を持ってきてくれる。

 その日、父兄から持ち込まれたのはアワビだった。
 アワビはウニよりも深いところに住んでいるので、潜れない僕は獲ったことがない。
 ずいぶん後にそれは贅沢品であるということ、香港ではアワビでぼったくる業者の方がいることを知るのだが、初対面のアワビを見て、美味しそうだとは思えなかった。

 悲劇は翌朝に起きた。
 いつも通り、歯をみがき顔を洗って顔を上げた時だ。
 顔がエレファントマンになっていた。
 それは後に観た映画だが、記憶を総合すると、鏡の中にいたのはエレファントマンそのもの。
 あるいは田中角栄のようでもある。
 かつての総理大臣、田中角栄により「顔面神経痛」という病気が、世の中に周知されていた。

 「顔が田中角栄になったから、今日は休みます」
 というわけにもいかない。
 これは一時的なものであり、お昼には治っているかも知れない。
 そう思って登校したが、下校する頃になって、洗面所の鏡を恐る恐るのぞくと、やはりそこにはエレファント田中がいた。
 そのとき、13歳。
 左右非対称のこの顔で、僕はこれからずっと生きていくのか。
 人並みに恋をすることも、もう叶わないだろう。
 まだ、なに一つ楽しいこともしていないっていうのに・・
 僕の心は、深い海底に沈んだ。

 ただ、不思議に歪んだ顔をネタに、虐めてくるヤツはいなかった。
 女の子たちは、たいがい見て見ぬふりをしてくれた。
 「いやぁ、アワビ食べたら、腫れちゃって」
 自虐的に言う僕に、となりの席のトモコは、
 まぁそげん、おちこまんと。 
 じきになおるよ。
 と励ましてくれた。


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