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2014年5月 5日 (月)

2027年 山梨県人に関わるストーリー

丸の内のオフィスに勤務するサトウさんは山梨県生まれ。
大学から東京に出て、そのまま東京に本社がある会社に就職した。

「家賃はお金を捨てているようなものだから、もったいないよ」
親切(というよりお節介)な先輩から、マンション購入のススメを何度説かれたかわからないが、東京ではずっと賃貸マンションで暮らしてきた。
それは、あるもくろみがあったからだ。



2027年、サトウさんが40歳を迎えた年。
22年ぶりに山梨に引っ越した。

その3年前から探し始めたマンション。
地元はマンション建設ラッシュに沸いており、選り取り見取りの状態だった。
しかし、その買い手の大半は企業。
個人は少なかった。
販売業者は、自分のような安定した収入がある個人には優先的にいい部屋をあてがってくれた。



最寄り駅に停まる電車は1時間に1本。
毎時45分発。
19時を過ぎるとこれが毎時2本になるが、できれば早く帰りたい。

品川駅で過ごす乗り換え待ちの15分は、独特の時間帯だ。
出張で在来線から新幹線に乗り換えるのとは少し違う。
強いてあげるならば、東京ディズニーランドでスペースマウンテンを待つ時の気分に似ている。
地下深い閉鎖された空間が醸し出す、独特の閉塞感からだろう。



品川を出た時点でそこは大深度地下。
そこから地上に浮上することはほとんどない。
あったとしても、その区間はモールドと呼ばれる防音壁のトンネルで囲まれている。
外の景色を見ることができるのは、ほんの一瞬だ。


2010年代に走り始めた新幹線車両がフルアクティブサスペンションを搭載した時点で、電車は揺れから解放されている。
この車両も加速時のかすかなモーター音と「次の停車駅は相模原です」という車内放送で、発車したことを実感することになる。



品川を出ておよそ20分で甲府に到着。
新駅はJR甲府駅から離れた甲府市南部の田園地帯に作られた。
そこからは新規に開発された専用レーンを走る路線バスで10分。自宅そばのバス停で下車。
丸の内のオフィスを出て、ドアツードアおよそ1時間で自宅の玄関を開けた。

同僚たちの平均通勤時間が50分であることからすると、少々長い所要時間だ。
だが、3LDK新築70平米で2000万円台というマンションを、もしも東京で買った場合、通勤1時間ではとても済まない。

慣れ親しんだ故郷
幼なじみ
年老いた両親、兄弟、親戚
年をとれば人はみな一人に近づく。
そうした時、理屈抜き、損得なしで接してくれる人々が近くにいることは心強い。



この年まで独身で来たからこそ、こういう自由が効いたのだと思う。
東京で出会った妻がいたら、自分の両親のそばへ転居することを切り出すのは心苦しかっただろう。
東京で育った子供がいたら、その幼なじみたちと引き離すことはいたたまれなかっただろう。


リニア開通3年前の2024年、満を持して会社に尋ねた。
「リニア通勤の定期を認めてもらえますか?」
労働組合を間に入れたこと、会社がJR東海との取引をもっていることもあり、すんなりとOKの返事が来た。
東京で働いている同窓生に尋ねてみたところ、リニア定期を認めないという会社がほとんどだ。
自分は恵まれている。


「電磁波に包まれている時間が長いと、人はストレスから体調を崩しやすい」
重箱の隅をつつきたい人たちには、言わせておけばいい。
もしそうだとしても、そのストレスを解消するだけのくつろぎが故郷にはある。


これは、2027年、東京や名古屋で起こりうる、山梨県出身のすべてのサラリーマンに関わり合うストーリーである。

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