湘南の優しい風
右足の中指に豆ができたようだ。
走り始めて初めてのこと。レースの朝はディクトンを塗ってくる。恐らく靴ひもの締め方が緩くて、靴の中で足が遊んだのだろう。だが、豆くらいはどうということはない。気にせずそのまま走るだけのことだ。
20kmを過ぎれば折り返し点はもうすぐ。
自動車専用道路なので中央分離帯があるのだが、マラソンのためにそこを開けて折り返し点を作ったと聞いていた。
そういうことを知らなければなにも疑問を持たないほど、自然な風景の折り返し点が近づいてくる。
アウトインアウトで大きくコースをとって廻る。
ちょうどウォークマンからは「果てしない夢を」が鳴っている。
「長嶋さん走りきってみせますよ!」
別に長嶋ファンというわけではないが、自分に気合いを入れるためならば相手は誰でもいいのかも知れない。
雑誌の記事で折り返し点からゴールの江ノ島が見えると読んだ。だんだんと近づいてくる江ノ島が励みになる・・ということだが、海をみやって目に入ったのは霧にかすむような陸地。あんなに遠いのか?まさかそれは違うだろう。きっとあれは江ノ島の先にある半島に違いない。そう思い込んで、二度と海側は見ないことにした。
折り返すと道は上っている。
前からの風も感じた。
だが去年、折り返してから20kmの間、風速25mの風に立ち向かったことを思えば、この風は優しい。
だが、湘南国際でも風は吹くはずだ。武蔵野線も止まっていた、あの荒川の25mを乗り越えたのだから、怖い風はない。 初体験の風は、勇気を奪っていったが、一度経験したことは、次からはもう怖くない。風がくれば「おいおい、後ろから吹けよ」と突っ込んでやろう。
前もって、手帳にそう書き込んでおいた。
これくらいの風、どうってことないさ
そしてまた自分のペースを刻んでいく。
生理的イーブンといえども、この上りはかなり足が落ちている。15kmあたりからきれいなピッチを刻む小柄の女性が近くにいた。彼女は実に一定のペースで走っている。僕は平地になれば上げて、上りになれば下げる。その度に抜きつ抜かれつになる。彼女からしてみれば、僕は迷惑なランナーだったかも知れない。その彼女ももう、僕を抜いていくことはなかった。
有料道路には一般応援者は入れないのだが、沿道に住む人たちが柵の向こうから応援してくれる。
「がんばれ~」
その一人一人にうんうんとうなずいて走る。
ずいぶんとペースが落ちたのが自分でもわかる。
21kmの距離表示がやってきた。
1kmのラップが6分ジャスト。
そんなバカな。そんなに速いはずがない。キツネにつままれたような気分。
次の22km表示では1kmが10分かかっていた。
あとで思えば、21km、26km、31kmの表示は明らかにおかしかった。いずれも5km区切りの次の1km。
距離表示はボランティアの方が看板を持って立っている。足下には距離を表すマーキングもあった。何らかの手違いにしては不思議な法則性だ。
去年は風の中、おおいに励まされた尾崎豊「遠い空」今年はあまり心に響かない。
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