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2007年5月 9日 (水)

第三関門

 30kmのエイドを出るとすぐ折り返しの湘南大橋。後がないここで、この上りはきつい。
 いよいよやばいというところでかかったのは、さだまさし「案山子」
 去年の紅白を見ていて、この曲で郷里の母を思い出して頑張ろうと思った。だが、このタイミングに入れたのは間違いだった。
 正直いってもっとアップテンポな曲がほしかった。

 ひたすら全力で走る。
 31kmの看板を過ぎて時計をみた。13:01あと2分を切っている。
 あと300mを2分。いや1分30秒くらいか。
 まだいける。
 ガソリンスタンドが前方に見えている。道はなだらかに右にカーブしていて、その先は見通せない。いくら走っても関門が見えてこない。

 ZARDの「負けないで」が鳴っているのはわかった。去年もっとも励まされた曲。今は全力疾走に入っている。そして、ここからバスに乗るまで、どの曲のことも覚えていない

 もう随分長い距離を走った気がした。
 すると、はるか前方に人らしき姿がぼんやりと見えてきた。
 もしかして、ダメなのか。
 だんだんと人溜まりは大きくなり、それが堰き止められたランナーであることが僕にも理解できた。
 時計を見た。13:06
 もう制限時間を3分も過ぎている。
 300mを5分かかったのか?
 それはあり得ない。
 キツネにつままれた感覚。

 パイロンの先の道にもう走っているランナーはいない。
 僕だけが例外で前に進めるわけもない。
 ペースをジョギングに戻し、そして走るのを止めた。

 第三関門通過者で、第四関門を通過できなかった場合、31.3km以降の公認コース外コース(歩道のこと)を行けば制限時間は10時間というルールがある。完走扱いにはならないが、第三関門さえ抜ければ、誰にも止められることなく自分の足で江ノ島へ帰れるのだ。

 「スタートのロスタイムがあったじゃないか」
 「こんなの絶対おかしい」

 男性の怒鳴り声が聞こえてきた

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