常識を壊して楽しむ男
そそくさと屋内に入ろうとすると、入口では係員が「バッグを開けてください」とがなっている。
コンサートの模様を録音させないためらしい。
2年前の1979年にソニーからウォークマンが発売されていて、そこそこに普及しつつあったが、それは録音できない機械。
録音できるウォークマンなど誰も持っていない。
「小型ラジカセ」というカテゴリーの機械は、その5年ほど前から世の中に存在したが、英和中辞典ほどの大きさであり、荷物チェックで必ず見つかってしまうものだ。
この日の数年後、RKBのアルバイトでマイケル・シェンカー・グループ公演に来た。公演終了後、客としてきていた高校の同級生と偶然出くわした。
「さぁ今から長崎に帰るまで、これば聴かんば」
そう言って、彼は僕に録音機を見せていた。1982年あたりから急速に録音できるウォークマンが普及したのだろう。
当時はまだ「海賊版」という商売が生業となった時代。MTVもなければ着うたもない。テレビに出ない音楽家の音源はレコードと海賊版しかない。
日本初のミュージック・クリップ、カセットブック、ホームページ。後にこうした音楽家の新たな情報発信チャンネルはすべて佐野元春から始まっている。
録音機は手荷物検査場で見つかっても、永久に没収されるわけではなく、一時預かりとなるだけで、お帰りの際には返してくれる。少々のリスクを背負ってでも、コンサート会場での録音という行為は、ファンを誘惑した。
だが、いざ録音が成功したとしても、ファンというもの、音楽家に対して後ろめたさを引きずるもの。
それだけに後年、元春が「サウンドストリート」で
「ファンの一人が貴重な音源を送ってくれました」
とさらりと言って会場で録音したテープを放送した時、ファンはひっくり返った。
佐野元春は常識を壊して楽しむことも、ファンに示してきた。
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