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2007年8月 8日 (水)

最前列の異端児

 地下鉄で帰れる距離の人はそれでもよいが、北九州や久留米から来ている人だっているわけだから、コンサートの時間は後ろに押すよりは、時間通りに始まったほうがいい。

 元春はファンのこういう声にはとても敏感な人で、ある時は時間どおりに始めたりする。かと思うとサラリーマンの方は開演に間に合わないからと言って開演を19時にしたりもする。
 ある時、福岡サンパレスで行われたコンサートでは、18:30ぴったりに1曲めがスタートした。
 それまでいつも開演を待たされた僕は、どうせ今日も遅く始まるのだろうと高をくくり、ロビーで記念グッズを物色していたら「ワン、ツー、スリー、フォー」 と元春がカウントをとる声がホールから聞こえてきて、慌てて飛び込んだ。

 19時が近づいた頃、照明が落ち、暖色の光景が暗闇へと替わった。

 ハートランドのメンバーが歩いて出てきて定位置につくと、聞いたことのないオープニング曲の前奏が始まった。
 聴衆の頭には「?」マークが浮かんでいる。
 1曲めのつかみに失敗したコンサートは、後半までその後遺症が残る。この日はまさにそういうスタートだった。
 激しいリズムのスピードが上がったところで、一人の兄ちゃんが右袖から走って出てきた。
 まん丸いサングラスをかけている。

 変なやつが来た・・

 聴衆はさらに引いてしまった。
 お見合い写真では、実直で穏やかな人格を想定していたところに、やってきたのは、得体の知れないお調子者だったという、少しやるせない気持ちすら去来した。

 聴衆は全員座っている。
 初コンサートの僕はそういうものだと思っている。
 すると、最前列にいた男がたまらずに立ち上がって、ものすごいリズムで踊り始めた。元春とは1mくらいの距離で正対して、まるでダンス合戦だ。
 このまま放置すると、その周囲に邪悪が広まり、暴動が起こるかも知れない。そう察知してか、すかさずアルバイトの係員が男にタックルをして席に座らせた。あたりに安堵の空気が流れる。

 今、こうして読むと、なぜ座らせたのかが不思議だが、この時は博多の平和を守るためには、異端児は黙らせなければいけないという空気だった。



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