最前列の異端児
地下鉄で帰れる距離の人はそれでもよいが、北九州や久留米から来ている人だっているわけだから、コンサートの時間は後ろに押すよりは、時間通りに始まったほうがいい。
元春はファンのこういう声にはとても敏感な人で、ある時は時間どおりに始めたりする。かと思うとサラリーマンの方は開演に間に合わないからと言って開演を19時にしたりもする。
ある時、福岡サンパレスで行われたコンサートでは、18:30ぴったりに1曲めがスタートした。
それまでいつも開演を待たされた僕は、どうせ今日も遅く始まるのだろうと高をくくり、ロビーで記念グッズを物色していたら「ワン、ツー、スリー、フォー」 と元春がカウントをとる声がホールから聞こえてきて、慌てて飛び込んだ。
19時が近づいた頃、照明が落ち、暖色の光景が暗闇へと替わった。
ハートランドのメンバーが歩いて出てきて定位置につくと、聞いたことのないオープニング曲の前奏が始まった。
聴衆の頭には「?」マークが浮かんでいる。
1曲めのつかみに失敗したコンサートは、後半までその後遺症が残る。この日はまさにそういうスタートだった。
激しいリズムのスピードが上がったところで、一人の兄ちゃんが右袖から走って出てきた。
まん丸いサングラスをかけている。
変なやつが来た・・
聴衆はさらに引いてしまった。
お見合い写真では、実直で穏やかな人格を想定していたところに、やってきたのは、得体の知れないお調子者だったという、少しやるせない気持ちすら去来した。
聴衆は全員座っている。
初コンサートの僕はそういうものだと思っている。
すると、最前列にいた男がたまらずに立ち上がって、ものすごいリズムで踊り始めた。元春とは1mくらいの距離で正対して、まるでダンス合戦だ。
このまま放置すると、その周囲に邪悪が広まり、暴動が起こるかも知れない。そう察知してか、すかさずアルバイトの係員が男にタックルをして席に座らせた。あたりに安堵の空気が流れる。
今、こうして読むと、なぜ座らせたのかが不思議だが、この時は博多の平和を守るためには、異端児は黙らせなければいけないという空気だった。
Welcome to the HEARTLAND TOUR 「東から来た男」もくじ
| 固定リンク | 0
「音楽」カテゴリの記事
- 終演時間を明示するのがさださんらしい^^)「さだまさしチャリティーコンサート 長崎から、能登へ!」(2024.08.22)
- 【最終話】いつの日か THE RHAPSODY TOURの公式ビデオを手に入れて、大音響で鳴らしたい(2024.06.26)
- 僕は「イニュエンドウ」当時、フレディとメンバーの苦悩を知らなかった(2024.06.22)
- 「愛にすべてを」で入る幸せスイッチ「自分の曲だ」と想える世に出た時に立ち合った曲(2024.06.16)
- アダムに親しみがわいた「手を取り合って」肩の力が抜けた「Tie Your Mother Down」(2024.06.12)