冷蔵庫の閉め方
冷蔵庫は生まれた時から家にあった。
年代によって、生まれた時の状況は違う。
テレビが白黒だった
洗濯機が二層式だった
電話がなかった
テレビゲームがなかった
携帯がなかった
冷蔵庫はそのどれよりも先輩格
テレビを見ない日はあっても冷蔵庫を開けない日はない。
旅先でホテルにチェックインすれば、まず冷蔵庫を開ける。
一度抜いたら課金されてしまうジュースがびっしり入っていることもあれば、がらんとして何も入っていないこともある。
製氷室がついているもの、冷凍庫もついているもの。
風呂に行くにしろ、町に出るにしろ、冷蔵庫を見なければ夜が始まらない。
物心付いた子どもから老人まで、誰もが開けている冷蔵庫。
実はその「閉め方」に人柄が出る。
職場で席の隣りに冷蔵庫がある。
恐らく1980年頃の製品で、冷凍と冷蔵の2ドア、高さ150cmとそこそこ大きい。
一日に20人ほどが冷蔵庫を開けに来る。
お目当てのものを取り出して、8割の人が20cm以上手前で手を離し、惰性で扉を閉める。
ばたん
これを毎日16回聞いていると、いい加減うるさくなってきた。
冷蔵庫は静かに閉めてください!
紙を貼ってみた。
それまで、30cm手前から勢いよく締めていたおばさん二人が、なにやらひそひそと話している。
やがて、冷蔵庫の近くは静かになった。
一週間過ぎた。
再び、ばたん!とやる人が現れた。
貼り紙に目が慣れたのだろう。
自分が日ごろ疑問も持たずにやっていることは、自分では気付かないものだ。
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