日本の弓道(十一)
僕らの弓道部は学生ズボンの上に、学校名が入った白いトレーナーという、いつもの出で立ちで長崎の弓道場に立った。
二年生のヤマダが一番前に立ち、つづいて僕、主将のサトウ、怪力のマツモト、二階から打ち下ろすスズキと並ぶ。
競射の順でいけば5番めの僕が、先頭に立つところ。
だが、目の前には神棚と座敷があり3人の審判が鎮座して、こちらを睨んでいる。
早気の僕が目の前で打とうものなら、注意を受けるかも知れない。
その位置だけは勘弁だ。
ヤマダは遠足コースになっている佐世保市を見下ろす山から毎日下りてくる、とても気のいい男で、快く場所を替わってくれた。
初日は1立ち2射のみ。
途中交代は通常4射を終えてからだが、それが明文化されているわけではない。
もし一人だけ×を食らえば、いつも動物園のワニのような目で何を考えているか読めないイシイ顧問が、交替を求めてくるかも知れない。
(二本外した時の表記は×印になる。二本中てると◎)
それでもこの時、僕は弓道家だった。
神聖な射場に立ち、精一杯、弓道の型を試みた。
おかしな型で的に中てては申し訳ない。
弓道生活の最後に、納得のいく型で終わりたい。
この時の僕をサッカーに例えるならば、ゴールを目の前にしてキーパーと1対1になったセンター・フォワードが
「さぁここで右膝を10度折り曲げて、0.2秒で右足を70度外に開いて、ボールをインサイドに捕らえたら、左45度の方向に秒速2mの速度で振り抜こう」
と考えながら、シュートしているようなものだ。
左脳でフォームを気にしながら結果が出るスポーツはない。
応援に来ていた他校の女子高生から
「わっ!もう打った」 「なに、あれ?」
と顔を見合わせるなか、僕の早矢は的より1mほど高く、乙矢は1m右に外れた。
×を食らったのは僕だけではなかった。
あと一人、ポイントゲッターであるはずの、怪力のマツモト。
彼はこの試合がまだ2度目の公式戦だったのだ。
彼の口からいつもの大口が消えていた。
僕はこわばった顔をつくり、心で しめしめ と思っていた。
団体戦では10射4中という可もなく不可もないスタート。
もしも他の4人の調子が一斉に揃い、初日を終えて上位を窺う位置にいたら・・イシイは僕に交替を告げたかも知れない。
一本中てていれば・・
晴れぬ心のまま、弓と矢筒を肩にかけると、僕らは路面電車に乗り、繁華街からは遠く離れた旅館をめざした。
これが修学旅行ならば、しばしの自由時間を得て浜の町に出る。
好文堂で立ち読みして、松翁軒のカステラを買い、ツル茶んのトルコライスは腹に溜まるから諦めて、夕食会場の中華街「江山楼」に向かう。こってりスープのチャンポン、濃厚な味に焼けた炒飯・・・
だが、僕らは学校の予算で試合に来ている。
マヨネーズをかけた魚フライがメインの夕飯を食堂で食べ、二人がやっとの風呂に交替ではいると、皆でお金を出し合いテレビをつけた。
NHKニュースを見るほど、僕らは国のことを思う高校生ではなかった。
民法は2つしかないが、僕らは民法が4つある県があることを知らなかった。
大人の干渉をうけず、チャンネルを選択できることに、僕らは大きな自由を感じ、少し大人になった気がした (わけないだろ)
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