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2008年1月 2日 (水)

日本の弓道(七)

 弓道のフォームは八節と呼ばれる基本動作で構成されている。
定位置についてから矢を射終わるまでの8段階の動作それぞれに名前がついている。

第一節 足踏み 
定位置に足を決める。

第二節 胴造り 
麺作りではない。下腹に力を込めて土台を固める。

第三節 弓構え 
「ゆがまえ」と読む。左脇に抱えていた弓を両手で持ち、体の前に構える。

第四節 打ち起し 
弓を両手で上に上げる。この時はまだ引いていない。

第五節 引き分け 
左手で弓を支え、右手で弦をいっぱいまで引く。この動作の途中には大三(だいさん)というステップがある。正面に打ち起こした弓を平行を保ち的に向かって移動させる。この時右手は若干、弦を引いている。大三をしっかり停める型、ほとんど停めない型があるが、僕らは大三をしっかり停めるほうを習った。

第六節 会 
いっぱいに弦を引いた状態。

第七節 離れ 
弦を握っている右手を開く(矢が飛び出す)

第八節 残心 
矢を射終えて、両手がまっすぐ左右に伸びた状態。このポーズを何秒保持しなければ減点とか、そういうルールはない。弓道では昇段試験は八節の内容を問われるが、競技では的に中った結果だけが問われる。

 「弓を引く」と言うが、実際に引いているのは弦である。
 弦をいっぱいにひいた時、右手の位置は的から見て、右耳にほぼ重なる。
 その右手を離すのだから、物理的には一定の確率で弦が耳に当たる。
 だが、そこには矢が番えられているため、弦は右耳をかすめて外側を遠回りする。
 弓を支える左手の力が弱いと、弦が耳をかすめる。
 女性は弦の通り道に胸が突起しているため、上級者を除いては、胸当てをつける。

 フォームが悪い時は、よく耳に当たった。
 冬場は耳がかじかんでいるので、当たるとたまらなく痛い。
 そんな時は鉢巻きを耳に引っかけて巻き、的に向かった。

 矢をつがえないで八節の動作を練習することを素引きという。
 素引きでは矢がないので、弦を引いた手を離そうものなら、弦は耳どころか顔面を直撃する。
 素引きでは弦をいっぱいに引く「引き分け」の動作を終え「会」に入ったところで、弦を握った右手を開かず、初期の位置に戻さなければいけない。

 その日、ジョニー・デップの小屋を出て、体育館の裏にいた。
 そこは、不良が善良な生徒を呼び出すのに好適そうな場所。人通りはなく、誰から見られることもない。
 その進学校は荒れた学校ではないので、もちろんそういうよからぬ用途には使われていない。
 僕は一人、誰から見られることもなく、八節の素引きを繰り返していた。

つづく

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