派遣の貞子さん
貞子と言えば映画「リング」の主人公
そのモデルとなった人物は千里眼と言われた御船千鶴子。
1910年、その透視能力を学者から何度も実験されるうちに、メディアから "いかさま師" の虚偽をかけられて、1911年1月に自殺した。
貞子といえば、テレビのブラウン管から にゅーっと出てきて、髪を振り乱して地べたを這う。あの映像を思い浮かべると思う。
と前振りしたところで本題。
大手商社に勤める鈴木さんは、会社で貞子に遭遇したという。
ある日、鈴木さんは 隣りの部署の佐藤さんに書類を届けに行った。
その部署は蛍光灯が暗いのか、環境保護への取り組みで蛍光灯の本数を減らしたのか薄暗い。
そこは電話受注の部署だが、その日は電話が少ないのか、とても静かだった。
お目当ての佐藤さんは、あいにく席にいなかった。
仕方なく、書類を机の上に置いていくことにする。周りの誰かにそのことを言付けよう。そう思って辺りを見渡した時、鈴木さんは恐怖の映像に、息が止まりそうになった。
会社に、貞子がいた・・
女が、机に突っ伏して、両手は万歳のように前に投げ出し、寝ている。
髪を振り乱して・・・
時計を見た。
15:30
別に昼休みでも、休憩時間でもない。
後で佐藤さんに聞くところによると、貞子は派遣社員。
これまでに入った派遣社員さんが、立て続けに辞めた後に入ってきて、とても長続きしているという。
朝 9:00に佐藤さんが仕事を始めようとすると、貞子は来ていない。
受注窓口なので、来ていないのはとても困る。
9:30頃に貞子から電話がはいる。
「体調不良なので、午後から行きます」
そして、午後になると「やはり体調がすぐれないので今日は休みます」
たまに来ている時もすごい。
電話が途切れると、すぐ寝る。たまに、起きている時はインターネットを見ている。
派遣会社の内規なのか、携帯でメールを打つことだけはない・・と思っていたら、3カ月ほど経った頃から、机の下に携帯を隠して、メールを打つようになった。
電話の受け方もすごい。
「すみません、ちょっとわからないので、電話を替わって下さい」
というので、 どなたから?お名前は? と 確認すると
「お名前をおっしゃらなかったので、わかりません」
佐藤さんが電話を替わって、お客様に名前を尋ねると
「さっきの人に言いましたよ。おたくの会社は、名前を何度言わせるんですか?」
と怒られる。
たまに名前を聞いていたかと思うと、聞き違えている・・
正社員だったら、上司が黙っていないだろう。
派遣社員だったら・・
もっと黙っていてはいけないような気がするのだが。
よその部署のことなので、それ以上は言えない。
鈴木さんが、上司に、貞子 寝てますけど・・と言うと、上司はへへっと笑うだけだそうだ。
派遣会社の社長がテレビに出て、キャリアプランだとか、かっこいい言葉を並べている一方で、現場はこんなものである。
日本は豊かな国だと実感するひととき。
世の中には、まだまだ余裕があり、一日中寝ていても派遣社員が務まる。
その程度でも、派遣会社が登録しているのは 「安い労働力」が、とても不足しているということだ。
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