ひな人形と外国人
梅が咲いた2月の半ば過ぎ、大手ホテルのエントランスにひな人形が飾ってある。
五人囃子の笛太鼓までしっかり押さえた七段の瀟洒なもの。
現代は 住宅事情、平たく言えば置き場所の都合で主役の二人(お内裏様とおひな様です)だけというのが主流。その人形作りの質に拘った品が多い。
段数、登場人物が多いものが高いとは一概に言えない。
そこに外国人の団体ツアー客がどやどやとやってきた。
食事を終え、これから観光にでかけるらしい。
玄関の車寄せに黄色い「はとバス」が待機している。
「ほぅっ」
45歳のジョーンズが、ひな人形をめざとくみつける。
手にしたデジカメで早速写真をぱちり。
そこに現れた妻のロザンナ
「ジョーンズ、なにこれ、すてきじゃない?」
「そこに立ってくれ。あぁ、プリンセスにかぶらないようにね」
続々とツアー仲間が集まってきて、撮影会にくわわる。
ひな人形の前にはヒノキ造りの看板が立っている。
ジョーンズはその看板も一枚押さえる。
なんて書いてあるのかな?
きっと、これは日本の平安時代からの言い伝えで、男性が女性にプロポーズをする時に、この人形を送った。家庭を築いてからは毎年、いろいろな楽器の演奏キャラをゲットして、それに応じてどんどん段数が増えていく。
村上隆に代表される日本発ポップカルチャー「おたく文化」「萌え」の源泉に位置する伝統工芸である。
幸せな結婚生活を20年も送っていれば、最上段が天井に当たってしまい、家を改装する必要に迫られる。
そんな幸せの象徴の音楽隊なのだ・・
・・・という背景がここに書いてあるんだろうね?
「すてきだわ」
ジョーンズの妄想を真に受けて、うっとりするロザンナ
「日本人って、なんて素敵なんだろうね」
とジョーンズ
看板には
「人形にはお手を触れないでください 支配人」
と書いてあるだけなのだが・・
「ちょっとそこのあなた、この人形の由来を教えてくれないかな」
と言ってくれれば
「来る3月3日は桃の節句と言って女の子の健やかな成長を祝う日。その日に飾る人形です。
すべての家が飾るわけではなく、裕福だから飾るというものでもありません。
要は伝統の踏襲にこだわる家は飾り、無頓着な人は飾らないというだけのことです。
伝統に拘る人たちは5月5日こどもの日(男子の節句)では鯉のぼりをベランダからつるし、それでも気が済まない人は 鎧甲を床の間に飾ります。
ひな人形は何日から飾り始めるという決まりはないのですが、2月の半ば過ぎに押し入れから出して飾る家が多いと思います。
3月3日を過ぎて仕舞い忘れていると、婚期が遅れるという言い伝えがあり、愛娘を手放したくない親の中にはわざと片付けない人もいるんですよ」
お節介な僕としては、こうしてユーモアを交えて教えてあげたいところだが、幸か不幸か声はかからなかった。
ジョーンズとロザンナの国の「日本ガイドブック」では
" 日本人は皆、Junior high school(13歳)から英語を学んでいるが、シンガポールのように公用語として位置づけられているわけではないので、街では英語は通じない "
と書いてあるのだろう。
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