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2008年3月27日 (木)

開幕!やり直しの利くスポーツ

 2008年8月17日(日)に開かれた夏期五輪 女子マラソンは、25度を超える猛暑。30kmを過ぎて、早くも優勝は3人に絞られた。

 野口みずき(前回五輪優勝)
 クラウディア・ドレハー(東京マラソン2008優勝)
 ポーラ・ラドクリフ(世界記録保持者)

 33kmで一旦野口が前に出るが、すぐにラドクリフ、ドレハーが着く。
 39kmでは今度はドレハーがスパート。ラドクリフはここで離れるが、野口は追走。
 二人のデッドヒートは競技場までもつれ込み、ラスト200mで再加速したドレハーが優勝、野口は2位。10秒遅れでラドクリフが3位に入った。

 ここで、館内に放送が流れる。

「60分後に上位3選手によるポストレースを行います。距離は5km地点折り返しの10kmです。本戦を1位通過したドレハー選手には3分のアドバンテージが与えられます」

 そう。今回から導入されたポストレースの始まりだ。
 本戦で1位でも世界一は確定しない。
 ただし、1位の選手が本戦の優勝者という記録は残る。
 議論の末、ポストレースでは 1位の選手だけにアドバンテージが与えられた。

 そして迎えたポストレース。
 まず、号砲と共にドレハーがスタート。
 3分経過の合図で、野口とラドクリフが追走にはいる。
 一児の母となって以来、驚異的な速さが影を潜めたラドクリフは、5km手前で野口に後れを取る。

 野口はポストレースを見込んで、タッチアンドゴー、つまり長距離を走った後の高速短距離走対策に時間を費やしていた。
 長距離では粘りをみせるドレハーだが、この距離ではなかなかエンジンがかからない。1位で月桂冠をかぶせてもらった時点で緊張が途切れたのかも知れない。

 それはそうだろう。
 本来ならば、今頃月桂冠ではなく、金メダルを胸に国歌を聴いている頃だ。なんでまた、こうして走らなければならないのか。
 事前にわかっていたことだが、実際にその立場に自分が立つと、腑に落ちない腹立たしさで目の前のことに集中できない。

 野口は60分の間に気持ちを切り替えていた。
 四の五の言うのは、すべてが終わってから。
 とりあえず、今できることをやろう。

 そうした二人の気持ちの違いは、明らかに走りに現れた。
 8kmで野口に並ばれたドレハーは、野口の背中を追うこともなくジョギングに切り替えた。
 ラドクリフは 7kmでレースをやめていた。
 ドレハーはチームスタッフから、ラドクリフのDNFをきくと、カタチだけの 銀メダル確定ゴールを目指す。

 競技場に一人で入ってきた野口。
 だが、そこには大歓声はない。
 ゴールテープを切った野口は、五輪に敬意を表してお座なりな笑顔を見せた。
 表彰台に立ち、二大会連続の金メダルを胸に「君が代」を聴く。

 お盆明けの日曜日。
 この日を指折り数えて待っていた日本人の多くは、野口が本戦で2位だった時点で、ハードディスクレコーダーの録画ボタンを押して、街へでかけていた。

 野口がメディアの代表インタビューを受ける。
「結果として金メダルを手にできて嬉しいです。できることを精一杯やることができ、心身両面で支えていただいた監督、チームスタッフの皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです」

 笑顔ひとつ見せず、かと言って、誰かに対して申し訳ないといった、面倒な感情にはこの際触れず、奥歯に物がはさまった会見を終えた。

 現地から日本のスタジオに映像が切り替わった。
 「やりました、二大会連続金メダル!」
 キャスターは、弾けんばかりの笑顔で叫び、スタジオ中に拍手がわき起こった。
 だが、録画で見ていた視聴者は、ここで停止ボタンを押した。

 これは、架空のストーリーである。
 実際の五輪マラソンは、本戦の一発勝負。
 スポーツとはそういうものだ。

 だが、実話としてこれを地でいくスポーツが今年も始まっている。
 しかもそれは、お客様からお金をとって見せるプロスポーツだと言うから、びっくらこいてしまう。
 やり直して「あなたが日本一」と言われて、心から嬉しい人がいったいどこにいるのか。

 そこに集う選手の皆さんも、自由移籍権利取得年数の短縮などと呑気なテーマで戦っていないで、就業定員が先細りになる前に、その変てこルールを何とかしてくれと戦った方がよいと思う。



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