ランナーが抱く妄想、描く夢 16→20km
16→17km
上り坂は足を使わぬよう、上半身で進む。
練習ではこの数倍の急勾配を走り、上り坂何するものぞと思っていた。だが、その長さが違う。16km走って来た後、だらだらと 1kmつづく上りはさすがにこたえた。
6kmから15kmまで7分ペースを刻んできたが、この1kmは30秒を余分に要した。
ふり返ってみれば、この「最後の難所」で心がぐったりしてしまった。
コースは右折して山道へ。
このレース唯一の関門17km地点が見えてくる。
制限時間は2時間15分。
手元の時計では、2時間9分37秒
5分20秒の余裕をもって通過した。
ロスタイムの読みで 8分の貯金があった割には、タイムは速くない。自分はまだ、こんなものだったのか。
未経験者は、レース前に夢を見る。
1km7分ペースを思い描いているが、レース日になると、羽根が生えたようなペースで楽々走れるのではないか。
いや、素人が世界記録を出してしまったら、どうなるだろう・・・
ここまで妄想できるのは、ちょっと異常か、ある意味で才能かも知れない。
17→18km
時計は第一関門の制限時間、12時17分を指している。
ここで、雨が落ちてきた。
最初は2、3滴。次第に強くなりメガネが水滴で埋まる。
レースはいつもメガネをかけて走る。
マラソン指南書には、サングラスをかけると紫外線対策になり、レースに集中できると書いてある。
だが、近視のランナーにとって、サングラスは夢でしかない。
サングラスをかけるために、コンタクトレンズを入れるという手はあるが、さらに疲労が増幅しそうで、気が進まない。
メガネはナイキのフレーム。なんのストッパーもつけていないのに、まったく揺れることがない。これにUVカットレンズを入れている。
右の靴底にガムでも踏んだような異物感がきた。
直径3cmはありそうなしこりを感じる。
靴の裏を確認したい。いや、走っているうちに自然と剥がれ落ちるかも知れない。
地面に靴底をなすりつけるような動きを2度3度。だが、故障しては元も子もないので、すぐやめる。
そのまま、1kmほど我慢したが、たまらず右端に寄り、ガードレールに手を添えてアウトソールを見る。
だが、靴底には何もなかった・・
荒川、湘南はアシックスニューヨーク2110(2005年秋モデル)で走った。
アートスポーツで「目標はとにかく完走」と告げたら、これを勧められた。だが下調べで、心はこの靴に決まっていた。
「マラソンシューズ売れ行きナンバー1」
右も左もわからぬうちは、この謳い文句に従っておくのが無難だ。
今回は2007年秋モデルのニューヨーク2130
会社でも履けるオールブラック。スラックスに運動靴を履くと、中学校の先生になってしまうところだが、ミッドソール、アウトソールまで黒い靴ならば、違和感が薄い。
ブラックは、2006年の2120までは数量限定カラーだったが、2130から定番カラーとなった。
レース後に確認すると、2130のアウトソール(靴底)の溝は、大きめに切ってある。小石を噛まないためなのかも知れない。
18→19km
道路は右へ左へと蛇行している。
コース取りをアウトインアウトに変更する。
こうすれば最短距離となり、少しでも体力を温存できる。
ただ、ほとんどのランナーは路側やセンターラインに沿って、道なりに走っている。そんな中、一人アウトインアウトで走るのは勇気が要る。
極力、他のランナーを煩わせないよう、後方確認に気を配った。
雨はいったんあがったが、再び緩やかに降り続き、路面も濡れて完全なウェットレース。
F1ならばピットインして、レインタイヤに履き替えるところだ。
レースで雨走行は初体験。足を滑らせないよう気を配ることは、足に負担がかかりそうだ。できれば、路面は乾いて欲しい。
ここは周回コースの東端。折り返し点を過ぎる 14時45分頃には雨はあがった。この一帯だけが雨だったようだ。
サブスリー、サブ4ランナー達は、雨に遭っていないかも知れない。
完走証に記された天候は「晴」 これは、スタート/ゴール地点のもの。
確かに土浦の競技場は行きも帰りも晴れていた。だから間違いではない。だが、実際のコース上は 35kmまでずっと曇っていた。
公式記録「晴れ 9.8度」は来年、ランナーが検討する時には、魅力的なデータだ。
素人のうちは「晴れ」を喜ぶし、アスリートは、ほどよく低い気温を喜ぶだろう。公式記録はこのように作られているのだと知った。
39番めに入れてきた QUEENの「'39」がヘッドホンで鳴っている。
QUEENのファーストアルバムから数えて39番めに収録されている、2039年を歌った曲。
今日のセットリストは全85曲だから、そろそろ折り返しが近づいている。
昔のCDはパソコン・ハードディスク時代を想定していない。
'39 はフェードアウトの終わりがけに、次曲 SWEET LADY のイントロが入っている。
19→20km
生活道路にはいると、軒先に椅子を並べて応援してくれる老婆が目につく。
おじいちゃんはどうしたのだろうか。
そして、なぜか椅子は全員の分はなくて、3人の老婆の横に一人おばちゃんが立っているというパターンが多い。
ぱちぱちぱちとしなびた拍手に、頑張れ~という声援。微笑ましくて嬉しい。
時折、郷里にいる母親に似た老婆がいた。
僕が似ているなぁとしげしげと見ていると、むこうもきょとんとした顔でこちらを見ている。
節目の20kmを迎える。
だが、30kmからがマラソン、それまではジョギング。再び、そう言い聞かせる。そうやって「まだ半分来てないのか..」そんな弱気を追い出す。
ペース表を取り出す。
予備のペース表も、メンディングテープで濡れ防止加工をしておいた。
ここまでやるか?という準備が役に立った。
20kmのスプリット
目標 2時間35分
実測 2時間32分
この5km区間には、16→17kmに「最後の難所」があった。
15kmで 守っていた 6分の貯金は、3分使ってしまい、残り3分となっている。
5月12日につづく
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