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2008年5月16日 (金)

37kmのヤングマン 35→38km

35→36km
36kmの看板が"38"に見えた。
見間違えだということはよくわかっていた。
でも本当に38だったらいいなと、看板をじっと見た。

レースの2週間前に、眠りながら走る夢をみた。
目が覚めたらマラソンを走っていたという夢をみて、目が覚めたのである。
眠っているうちに走って、レースが残り5kmになっていたら、どんなに楽だろう。
睡眠学習法があるくらいだから、睡眠走行法も編み出せないのだろうか・・
その日一日、考えていたが、この短期間では開発は難しかった。

歩きたい。
この地点で撮影された写真を見ると、自分以外は皆歩いている。

「俺は今日ここに走りに来たんだ。歩きに来たんじゃない」
そう心で叫んで前へ進む。

荒川の時は僕が歩く側にいた。
その時、どんなに速く歩いても、ゆっくり走る人にはかなわないことを知った。
歩いたほうが楽で速いということはあり得ない。
やはり走ったほうが速いのである。
ただ、その速度差はほとんどない。

道いっぱいに広がってだべりながら歩いている集団を追い抜いていくと、その会話をしばらくの間聞くことになる。
「なんだ、この人走ってるのか」という感じで、皆がこっちを見る。

マラソンでは初めの10kmは、仲間で参加したランナーがわいわいと喋っている。
それが半ばを過ぎる頃には静かになる。
だが、ここかすみがうらでは、チームで歩いているランナーがところどころにいて、賑やかだった。

36kmに到達。もうペース表は見ない。
予定では、ここから先は 1km8分45秒ペースでゴールまで行くことになっている。
この1kmのラップは 8分41秒。
前半は皆が走っているので、ペースメーカーを見つけられた。
後半は走っている人はさらに速いし、歩いている人はさらに遅い。ペースメーカーは見つからなかった。

36→37km
去年の秋からアイスを断った。
本来ならば3月の湘南国際が終わるまでだったが、出場レースをかすみがうらに鞍替えしたので、アイス断ちは 1カ月延びた。
ランニングが趣味なのではなく、マラソンが趣味なので、30kmレースに変わってしまった湘南国際は走れない。
湘南に照準を絞っていたため、東京マラソンは応募もしなかった。
一度走った荒川、復路のあの猛風は勘弁して欲しい。
そこで、見つけたのが、かすみがうらだった。

その間も、コンビニでアイスのチェックは欠かさない。
あ、新製品出てるな。これマラソン終わるまで、売ってるかな・・
日常的に買っている時は、変わり映えしないアイス商品群に愛想が尽きていたが、半年も買わないと、どれも魅力的に映る。

練習では「アイス」「アイス」と連呼すると、楽しく走ることができた。
ここで、それをやってみたが、あまり心に響かないので、すぐにやめた。

スポーツ写真サイト Allspotrsで撮影された自分の写真には、陽射しの影が映っている。
カメラが待っていたので、周囲のランナーから離れて、ピンでファインダーに収まる位置を取る。これもマラソン3回めの知恵だ。これは、いい写真が撮れたなと感じた。

このようなスポーツ写真を専門に撮影する業者があることは、マラソンを走って初めて知った。
大会終了後、3日ほど過ぎるとウェブサイトに写真が掲載される。
自分のナンバーで検索すると、自分の写真が出てくる。
だが、今回はナンバー検索で出てきたのは1枚きり。
あの自信のあるショットがない。

おかしいな、確かもっと撮ってもらったはずなのだが・・
すると「ナンバーなし」のページにあった。
自分のフォームは自分ではわからないもので、右手を前に巻き込むように振っていた。それでナンバーが隠れていたのだ。

走りながら、驚いていたことがある。
それは37kmも走ってきたのに、下を向かず、息もあがらず、まっすぐ前を見て走っている自分。
写真でも、前を見据えた覇気の残る表情が捕らえられていた。

37→38km
37km地点で聴こうと思っていれた「ヤングマン」が鳴っている。
35kmの壁というのは本当だろうか?
残り5kmあたりを、自分はどんな気持ちで走っているだろうか?
そして、ヤングマンを聴いて楽しい気持ちになるだろうか。

友達に勧められた「ヤングマン」は、聴いてみて楽しかった。
85曲のうち10曲ほどは、友達に「マラソン向きの曲、何かない?」と言って、教えてもらった。
みてくれ、これが僕のマラソンだ!
何度も、そう叫んで走る。

左側に 37.5kmのエイドが見えてくる。
すると右側で 5歳くらいの坊主がハイタッチを待っている。
そっちに行きたかったが、もうその力は残っていない。
ごめんな心で言って、エイドで水とバナナをもらう。

どこのエイドもそうだが、スポーツドリンク(アミノバリュー)と水の区別がつかなかった。
水とスポーツドリンクのコップのデザインが似ているのだ。
水は無地の白。アミノバリューはオレンジというふうに、わかりやすくするとよい。

そして、大半のエイドは水しかなかった。
速いランナーが通り過ぎた時点で、スポーツドリンクが終わってしまったのだろう。

スポーツドリンクが必要なのは、速いランナーだけではない。
「参加者が昨年比150%になったので読み違えました」
というのが、理由に使われるのだろうが、今年しか走らない人にとっては不運というしかない。

飲んだ後の紙コップは歩幅を合わせ、ゴミ箱に落としていく。
だが、風に煽られた紙コップはゴミ箱の外に着地した。
ゴミを1つも落とさないというのは、初マラソンからの約束ごと。
ここに来て、拾い直しに戻る力は残っていない。
ごめんなさいと言い残して、先を急ぐ。

ここまでは、整然と呼吸して口を閉じてきた。
淡々とした顔で走り、応援の声にはにこにこと笑顔で応えた。

だが、もうここらで口を開けて、力を振り絞ってもいいんじゃないか。
辛さを顔に出してもいいんじゃないか?そう考えた。

そして、ここから口を開けて必死の形相に切り替える。
てくてくと負荷をかけずにいくことが安全なのだが、それでは時間がかかる。
とにかく一刻も早く、この苦しさから逃れたかった。



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