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2008年5月21日 (水)

ジャック・ニクラウスもボギーだった。

「7番アイアンっていつ使うの?」【 10 】

 「ご迷惑をおかけすると思います。今日一日、一生懸命走りますからよろしくお願いします」
 まず、初めにそう言えと、先輩からアドバイスを受けていた。

 いやいや、こちらこそよろしく。
 年の頃 57歳。
 小柄でにこやかなスズキ専務。
 偉い割には、腰が低くていい人そうだなと思ったが、まだその頃は、人の本性をみる洞察力が備わっていなかった。

 キャディさんにも挨拶する。
 「ど素人なので、一生懸命 走ります。よろしくお願いします」
 この習慣はゴルフをやめる日まで続いた。

 この挨拶をした時に、キャディさんの人柄がわかる。
 人は鬼ではないので、真摯な態度で接する人には好感を持つものだ。
 だが、真摯な態度にも心を鬼にする人は、少なからずいる。

 「はい、はい。いいんですよ。がんばりましょう」
 と笑顔で言ってくれるキャディさんだと、その日はずっと楽しい。

 「はあっ?下手だったら コース出るなよ」
 と顔に書いて、露骨にぶすっとするキャディさんだと、悲惨な気持ちになる。

 肝心なことは、キャディさんがどんな人であっても、自分が怒りんぼしないということだ。怒ってうまくいくスポーツはない。
 怒ってうまくいくこともあるのは、子育てと恋愛の駆け引きだけだ。
 ただ、いずれにせよ、怒りを駆け引きに使うのは、人後に落ちる。

 その日の第一ホールのことを、スタートホールと言う。
 スタートホールで打つ順番は、上手い順ではなく、くじで決める。
 ティーグラウンドの脇に「当たるも八卦、当たらぬも八卦」と昔の占い師がやっていたような、金属の棒が4本立ててある。

 誰かがこの棒を手に握り、メンバーに 1本ずつ取るよう促す。
 この時の「誰か」は誰でもよい。一般的にはその組のお世話役、あるいは番頭格が棒を握る。
 ただ、ど素人の下手くそがいきなり、この役目を買って出ると、皆がびっくりする。

 棒を引く順番も特に決まっていない。近くにいた人から順に引く。
 3人が順番に1本ずつ棒を取る。
 棒の下のほうに溝が切ってある。
 溝が1本だと1番め。4本だと4番めに打つ。

 1人が1本引くごとに「はい3番ね」と確認して、棒はすぐ返してもらう。返してもらった棒を混ぜると3番が2人になってしまうので、混ぜてはいけない。

 最後に残った1本が自分の分。
 真っ先に自分が引いてはいけないという決まりはないが、そんなことをしたら、皆がびっくりする。

 複数の組で回るゴルフコンペの場合、第1組の1番めは、注目度が高くとても緊張する。ど素人にとって、是非とも避けたいところだが、だいたいそういう人に当たるようになっている。

 真夏の宮崎の太陽は過酷だった。
 この日のスコアは177 恐らくこれは名門フェニックスのコースレコードだろう。
 17番ショートホール par3 では、ゴルフを始めて以来初めてのボギー。
 ゴルフでは規定打数と同じ打数でそのホールを終えることを「パーをとる」という。
 1打多いボギーについては「ボギーをとる」とは言わず「ボギーを打つ」「ボギーを叩く」という。一流ゴルファーにとって、ボギーは劣悪な結果であり、そういう結果に終わることを「叩く」と表現する。

 かつて、ダンロップフェニックスオープンでジャック・ニクラウスがボギーを叩いた17番で、ニクラウスと並ぶボギーを取った。
 このネタをその後、10年語り続けたのは言うまでもない。

 18ホールを終えて、その日のゴルフを終えることを「ホールアウトする」「上がる」という。
 ホールアウトしてお風呂に入る。
 素人ゴルファーにとって、この風呂と、風呂上がりのビール以外に、楽しいことは何もない。

 「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
 初めはにこにこしていたスズキ専務だが、もうお風呂では口をきいてくれなくなっていた。

 だいたい、日焼け止めを塗った真っ白な顔が気持ち悪かった。\^^ オイオイ
 世の中はまだ、オゾン層も紫外線も話題になる前。
 ただ単に、日焼けして「仕事をしていない」と言われるのを嫌ったのだろう。

 ゴルファーを見分けるポイントは、右手と左手の色。
 左手だけにグローブをはめるので、右手に比べて左手が白い。
 スナックでもてるために、営業車を走らせる時、いつも左手に軍手をはめている人がいたくらいだ。

 頼まれたからコンペに出たのに、2万円以上払ったうえに、怒られたのでは割に合わない。
 だが、ぺーぺーの身ではそんなことはおくびにも出せない。
 この日を境に、さらにいっそう、ゴルフが嫌いになった。



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