買い戻されたビンテージクラブ
「7番アイアンっていつ使うの?」【 8 】
「これってどうやって打つんですか?」
目の前には、ゴルフセットが置かれている。
年季のはいったバッグに、年季のはいったクラブ。ウッドはパーシモンだ。
などというのは後に思うことで、その時は生まれて初めてみるゴルフクラブに戸惑っている。
どっちに向かって打つかくらいは素人にもわかる。
前後の林や、今出てきたばかりのクラブハウスにボールを打ち込む競技でないことは察しがつく。
だが、クラブを構えて見ても納得がいかない。
こんな凸凹の面でボールがまっすぐ飛ぶのだろうか?
反対側の平らな方で打った方が、いいのではないか?
渋々、一度素振りをする。
そこで、周囲が騒然とした。
「おまえ、左利きなのか?」
そうですよ。僕は生まれながらの左利きですよ。
お箸と鉛筆は下関のおばあちゃんが厳しく母親に言ったから、直しましたけどね。
と言っている場合ではない。
ソフトボールのバットはいつも、左から右に振っているし、棒状のものを右から左に向けて振ったことは一度もない。
なんだよ、左利きなら、そう言えよ
という先輩に、ゴルフだったらゴルフだと、前日に言えよ
というツッコミは心に仕舞う。
四の五の言っても始まらない。
ゴルフ場の貸し靴でティーグラウンドに踏ん張り、生まれて初めて棒を右から左へ振った。
すると、芯を食った(=真芯をとらえた)ボールは、風を切る音を残して、300ヤード彼方で弾んだ。
わけがなく、ぽくっ という鈍い音を残して、5m先に転がった。
皆が笑い転げている。
今思えば、なぜボールに当たったのかが、わからない。
ゴルフ場での記憶はここまで。
つづきの記憶映像の中の自分は、その数時間後、ハーフで上がって(=1ラウンド18ホールではなく、9ホールでやめて)山口駅のホームで、九州へ帰る電車を待っていた。
先輩が用立ててくれたゴルフクラブは、おじいちゃんからのお下がりだという。
お前にやると言われたが、いい大人がタダでもらうのはかっこがつかないので、1本あたり千円×14。キャディバッグ(ゴルフクラブを入れるバッグ。キャディさんが持って回るのでこう呼ぶ)千円。合わせて15,000円で買い取った。
しかし、数ヶ月後、ビンテージで値がつくクラブだということがわかったらしく、5千円プレミアをつけて、2万円で再び、先輩の元へと帰って行った。
その後、4年間、ゴルフはどうしても断り切れないコンペ以外では、一切しなかった。
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