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2008年6月26日 (木)

東大と九大の差

 東京大学
 「IDOは東大の法科ですよね。どうして東大だったんですか?」
 田中一徳と僕は同じ博多の生まれ。法曹を目指すだけならば、東大じゃなくてもよかったのでは?と彼の顔に書いてある。

 僕は東大を目指したというのでも、弁護士・検察官・裁判官を目指したっていう訳でもないんだ。中学校の頃を境に、遠くにある何かを目指すようになったというか。それが具体的に何というのは、僕にもずっとわからなかったけどね。その場所につづく水路が東大、東大法科大学院の横を通っていたと言う感じかな・・

 僕の中学・高校時代はまだ、電子ゲームが脳に与える悪影響については仮説の域を出ていなかった。
 友達は皆、複数のゲーム機を親から買ってもらい、四六時中ゲーム攻略に余念がなかった。
 一方、姉と僕の娯楽と言えば、図書館で借りる本とCD。図書館では最新のヒット曲はなかなか順番が回ってこなかったが、それでも3か月ほど待てば借りることができた。そこにない場合、都内じゅうの図書館から取り寄せてくれる図書館のお陰で、僕は少しだけ東京が好きになった。
 カラオケやゲームセンターに行くことはできないので、姉と僕はいつも家にいて、本を読み音楽を聴いた。父が30年前のブリティッシュロックバンド、クィーンが大好きだった影響で、姉も僕もロックを好んで聴いた。

 高校の時には、年間300冊くらいはビジネス書を読んでいた。中でもプロジェクトマネジメントの本はためになり、高校の時からPMBOKを暮らしに取り入れていた。
 生徒会長として学園祭を取りしきる時、小林麻央似のクラスメートに告白する時、東大の受験勉強も、いつもPMBOKに準拠したPNDを作り、優先順位・並行作業・マイルストーンを確認した。当時の日比谷高校は都立のトップ校だったが、周囲には僕ほど計画性のある友達はいなかった。

 恐らく、後任のIDOも東大出身者が選ばれるだろう。選挙で選ばれる政治家と違い、書類審査で就く要職は東大が独占している。そのことに早く気づいた人。実際には大学を受験する18歳以前に気づいた人には、その選考レースに加わるチャンスがある。

 田中一徳は地元の修猷館高校から九大に進んだ。九大は九州のトップ校であり、学費の負担も私立に比べて格段に軽い。ご両親は福岡市南区大橋で 30席ほどの焼鳥屋を営んでいる。親御さん思いの田中君は、なんの疑念もなく九大一筋で勉強に励み合格した。

 「えーっと皆さん、今日は私がおごります。こん息子が九大に入りました。いつでん、皆さんからよぉしてもろたお陰と思うとります。よかったら今日は心おきのう呑んでってください。ほら、お前もなんか挨拶ばせれ」
 父親はたいそう喜び、合格発表の日、来客すべてに酒をふるまったという。親元から大学に通い始めた田中君は、それまでしてきたのと同じように、部活がない日は店にはいり、キャベツを切り、注文を受けた。バイト代は受け取らなかった。学生アルバイトには一年も勤めれば、焼きを任せていた父親だが、田中君には決して焼かせなかった。何度か「俺にも焼かせんね」とせっついたという。

 「お前はよか」
 お前にはお前の道があろうが。とお父さんは言いたかったのだろう。
 親が子離れした、いい関係だと思う。

 一心不乱に参考書と問題集に向き合った高校時代と比べて、大学では時間にゆとりができる。彼は小学生の頃、大好きだった小説を読む暮らしに戻った。
 大学一年の夏休み「青春の門」を読んだ彼は、大きな後悔をする。主人公が筑豊の町を出て、東京の大学を目指す物語。そこには、高校までの自分が思い描くことのない世界があった。彼の世界は関門海峡の手前までであり、九州の東京は博多だったのだ。
 彼は悔しかった。もっと早くこの本を読んでいたら違っていた。東京の大学に行きたかった。
 だが、それを両親に話すことはなかった。心に思ったことを隠さずに言えば自分は楽になる。だが自分には、それを聞いた人をがっかりさせたり、思い悩ませる、そんな権利はない。彼はそのことを学んだのもまた、大学時代に読んだ一冊の本からだったと言う。

 子どもには、可能性がある。ただそれは、選択肢を提示された子どもに限られる。だから、より多くの情報を親から子どもに伝えてほしい。
 それを実現するために、彼は文部科学省に進む。そして入省8年めの年、IDO室総合選抜に応募した。

 幸田さんも東大出身で、ここに来る前は文科省にいた。
 いつも建設的な提案を出してくれる田中君を見ていて、ひょっとして彼が 19番めの人なのではないか、これは橋本から僕への謎かけなのではないかと考えていた時期もあった。
 九大出身の田中君が、この先IDOに就く可能性はないが、彼は十分にその資質を備えていると思う。

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