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2008年6月12日 (木)

総理とのブリーフィング

 IDO就任以来、いつでも、誰とでも「会話」することを心がけてきた。
 人と人は交渉ではなく、会話でつながっていると知っていたからだ。

 流ちょうに専門用語を並べているうちは、いい関係は築けない。
 心が通えば、警戒を解いて会話ができる。腹を割って話せば、結論は速い。
 だから僕は、初めて会う大臣とは気軽な会話から入る。

 お天気の話
 大臣の出身地の話
 今朝のニュース

 特に出身地の話を振ってあげると、驚いたようにこちらを見て、それからにっこり笑ってくれる。
 学生時代に「全都道府県制覇」という掲示板を立ち上げて、47すべての都道府県に一泊以上した。だから、どこでも、ネタを振ることができる。
 九州の人は茨城と栃木の違いがわからないし、東北の人は九州が9県あると思っている。
 道州制が施行されてからは、さらにマイナーな県の注目度が下がり、郷土が話題に上ることが少なくなっていたのだ。

 空気が和むと、ちょっといいですか?全然関係ない話しなんですけど..と雑談していく大臣もいる。
 関係ない話しは要りません。と即座に切り捨てるのは簡単だが、それでは世知辛い。心の中だけ、関係ないなら言うなぁ!とつっこんで、何でしょうか?と聞くことにしている。

 立法を陳情していく大臣もいる。
 弁護士経験5年という、神奈川二〇区の小西大臣は、自由刑について議論を挑んできた。
 「ところでIDO、ご存じかと思いますが..」
 知らないっつーの・・
 「自由刑の一本化については、長年、法曹界で議論が続いてきましたが一向に埒があきません。懲役には定役があり、禁錮には定役がない」

 専門用語好きだねぇ、おまえは「煙巻き君」だな?
 煙巻き君はIDO室用語。専門用語を速射砲のように撃って、相手を煙に巻く議員や官僚を指す。

 「そもそも、禁錮に定役が科されていないのは、政治犯のような名誉拘禁には、労働を科すべきでないという考えがあるのですが、これは、とても労働を卑しむ思想なわけです。この際、IDOのお力で、自由刑の一本化をご検討されては、いかがでしょう?」

 確かに現代においては、少々わかりにくい概念かも知れませんね。でも確か禁錮囚も請願すれば定役に就くことができますよね。囚人の立場から見たとき、それほど大きな問題ではないように思います。
 自由刑の区別は長い伝統を持っているようですし、どうしても片を付けたいと言うのであれば、やはり伝統に則って法曹界で議論された方が、後腐れがなくてよいのではないでしょうか?

 法曹の資格は取ったが、実務経験のない僕の見識を試したかったのだろう。まさか、農林水産大臣の口から自由刑一本化の話しが出るとは思わなかった。所管分野にもっと力を入れた方がよいと思う。

 知っていることは、間違いを恐れず即答する。知らないことは調べる。
 僕が知らないことについて問題提起を受けた時は、七日以内にお返事をすることにして、お帰りいただく。

 ブリーフィングを終えると、幸田さんが録音データを関係省庁に送る。すると24時間以内に、専門スタッフのコメントと提案が付いて戻ってくる。法制化しない場合は文書で回答し、法制化する場合は、再度、問題提起をされた方にブリーフィングに来ていただく。

 IDO室では、こうして大臣からの提言で立法する案件を「天ぷら」と呼んでいる。
 天ぷらとは昭和の時代からの政治の隠語。手際よく法律を国会にあげていく国対委員長をこう呼んでいた。
 IDOに就任して以来、立案から七日以内にあがらなかった天ぷらはない。

 総理とのブリーフィング
 僕の立法管轄には、内閣府、防衛省、国家公安委員会は含まれていない。
 立法ブリーフィングと越権協議は、関係する九省庁の大臣を相手におこなう。 唯一の例外は、内閣府専権事項の場合に来て頂く内閣総理大臣。

 当日のブリーフィングについては、法案名称だけを24時間前に参考人(大臣、総理大臣)に伝える。
 総理に初めて来ていただいたのは「スパイ防止法」だった。

 クリスマス前なのに今日も暑いですね。僕らの世代は、辛うじて冬は寒かったって知ってますけど、今の子供達は雪合戦も知らないんですよね。高橋総理は雪合戦はやりましたか?
 「うーん覚えてないけど、雪だるまと映っている写真はあったかな」

 総理は僕の左肩越しに東京スカイツリーの絵を見ながら考えている。
 そこには、小学生が描いた東京スカイツリーの絵が額に入っている。
 「素朴な絵ですね、どなたが描かれたのですか?」とよく聞かれる。
 東京都のコンクール入選作品らしいですよ。そういつも曖昧に答える。作者の名前は右下の隅っこに小さく書かれている。作者の記憶は頭の隅っこにうっすらと残っている。消しゴムで消そうとしても消えることはない。

 右肩越しの壁には、青空を突き上げる赤いチューリップの写真。
 僕がまだ小さかった頃、家族でチューリップを見にいった。それは春になると新聞記者だった父が、年に一度だけ連れて行ってくれる家族旅行だったらしい。
 チューリップは春の風物詩。子どもの頃チューリップは春咲く花と習ったが、地球の気温が上がったため、春のチューリップは五日と保たなくなった。気温がたまに10度を切ることもある冬になると、チューリップは2週間ほど花をつける。

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