日本ポイント制度
住民基本台帳番号の先駆けは、1970年に検討された統一基本コードだった。
当時の参議院議員中山太郎氏が「一億総背番号」を提唱した。
彼が25年後の社会として想定していた社会は、その実現に50年を要した。
想定より実現が25年遅れたのは、一億総背番号(住基ネット)の安定稼働に40年を要したためだ。
一旦住基ネットが稼働すると、そこからの道のりは平坦で、一気に電子政府化が進んだ。
提唱された当初“国民背番号制”と聞くと、背番号を背負った国民が隊列を組んで戦場へ行軍するシーンを浮かべる人が多かった。
メディアが「いつか来た道」というテロップをつけて、そのようなイメージ映像を流したからだ。
住基ネット反対派の論拠は 2つに集約されていて、1つは情報漏洩の危険性、もう 1つはプライバシーの侵害。
コンピューターなくして一億人もの管理ができないことは、2000年代には日本国民の共通理解となっていた。
2002年に運用開始した住基ネットの主キーは住民基本台帳番号。コンピューターシステムはユニーク(唯一無二)な番号を振らなければ、システムが成り立たない。
「セキュリティは大丈夫か?」
法務省時代、僕にこう言った上司がいた。
永遠の課題と言われていた行政・司法の住基ネット相互乗り入れを研究していた時だ。
僕は、はい!と即答した。
俺は心配したからな。お前が大丈夫って言ったんだからな。俺は知らないぞ。
上司は言外にそう言っていたのだ。
責任者が責任を部下に押しつける。こういう言い回しが、いかに無責任な態度かを、言っている本人は気づいていない。
これから初めてやることがすべて“大丈夫だ”とわかっていたら、世の中から失敗はなくなってしまう。
不思議と、セキュリティ云々を心配する上司に限って、スタンドアロンとネットワークの違いさえ理解していなかった。
自分の仕事のことなのに、コンピューターという機械が介在すると、それは“コンピューターのこと”になってしまうらしい。
コンピューターのことは自分の専門外であり、どんな事態が起きようとも責任は自分にはない。このような責任逃れが、2000年からの20年間、職場という職場で諍いの種になっていた。
日本はいち早くこれを乗り越えたが、これを乗り越えた国は、2039年の現在でも、まだまだ数えるほどだ。
税金を無駄に使うな! 公務員を減らせ!
と言いながら、住民をコンピューターで管理するなというのは、論理が破たんしている。
技術の進歩と、法整備による不正への厳罰化により、2020年には、住基ネットに関するセキュリティの懸念は去った。
残っていた懸念は2つ。
徴兵制に使われるのでは?
年金未納者のあぶり出しに使われるのでは?
反対する者は憂鬱を論う。
結論を言えば、使うに決まっている。
問題なのは使うことではなく、徴兵制が実施されるような事態を迎えることであり、年金未納という違法行為の方だ。
確かに、面と向かって「お前を管理する」と言われたら違和感を覚える。
だが、久しぶりに訪れたホテルで「佐野様ご無沙汰しています」と言われると気分がいい。管理されて嫌なこともあるが、嬉しいことだってある。
僕は背番号が、真っ当に生きることを保証する目的に使われる。その実例を早急に示すべきだと考えた。
日本ポイント制度
IDO就任の翌週「日本ポイント制度法」を公布、三ヶ月後より同法を施行。日本ポイント制度を開始した。
1999年から始まった地域通貨と、2000年から各地で試行されていた時間預託制度を統合。これを国全体で運用し、社会福祉に限らずあらゆる分野に適用する。
1999年に滋賀県で「おうみ」が誕生して以来、最初の10年で400~500。2030年には1,000と言われる地域通貨が存在していた。
この“と言われる”が妙だった。
IDO室のメンバーに調べさせたところ、中央省庁はどこも地域通貨の実態を正確につかんでいなかった。
「地域通貨統合法」を施行して、まず地域通貨の概要、サービスと地域通貨の交換比率を、自治体から財務省に届けさせた。
住民個々のポイントは、それぞれの自治体で管理する。
既存の地域通貨から日本ポイント制度への読み替え作業は自治体の仕事。
長崎県北部の地域通貨「あご」の場合、老人の慰問が「1あご」ならば、国民ポイント制では3000ポイント。
これら一連の作業を 3ヶ月で終え、1円=1ポイントの日本ポイント制度がここから始まった。
顕彰すべきことには、賞金ではなく「ポイント」。
軽犯罪のペナルティとしては、懲役の軽いものという意味で「役務」を定義した。
犯人検挙や消火・救命に貢献した場合は、10,000ポイントが付与される。
こうして、あらゆる「お役立ち活動」はポイント化する。そのポイントは、時間預託リストに掲載されたサービスを受けるという形で利用できる。
軽犯罪を犯した場合はマイナス・ポイントが付与される。
マイナスが10,000ポイントを超えた時点で、一週間以内に決められた役務を消化しなければならない。
ただし、役務消化が義務づけられるのは軽犯罪によってマイナスとなった場合のみ。
お年寄りが、時間預託サービスの買物代行を頼み続けると、ポイントがマイナスになるが、そういう場合はマイナスとなっても構わない。
外国には、ボランティア活動 50時間といった罰則規定がある。
懲罰活動に“自発的でほとばしるもの”という意味を持つボランティアということばは似合わないので、僕は役務と名付けた。役務と言っても、やっていることは「お役立ち活動」と同じ。傍目には両者の違いはわからない。
お年寄りの買い物代行をしている人が、ボランティアでやっているのか、軽犯罪の役務としてやっているのかは、傍でみている人にはわからないのだ。
制度の対象者に年齢の上下制限はなく、まさに、ゆりかごから墓場までの制度。
ポイント管理は、住民基本台帳番号を主キーとしたデータベースでおこなう。 国民は日本ポイント制のウェブサイトで、自分のポイント状況を確認する。
そのウェブサイトへのログオン・パスワードは1年に1度、変更しなければならない・・といった、面倒は廃止した。
住基ネットの安全性を技術面から高めることで、そういうユーザーにかける負担を減らせるのだ。
「責任逃れ隊」のお役所、企業内のシステム担当者には、ユーザーのせいにできる部分を残そうとするところがあったが、そういう風土を一蹴したかった。
同時に「SSO(シングルサインオン)法」により、すべての行政サービスと、民間サービスへのログオンは住基番号+個人別共通パスワードとした。
これで日本人は、いろいろなIDやパスワードを覚えなくてよくなった。
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