戦略的に配置される茶店
「7番アイアンっていつ使うの?」【12】
キャディさんはいろいろなことを知っている。
そのコースの攻略法ならば、キャディさんでなくとも、何度か同じコースを回れば誰でもわかる。
しかし、キャディさんだけが知っていることがある。
それは、その日のピンの位置。
グリーンのホールに立ててあるのがピン。
正確に言えばホールの位置だ。
ホールの場所は、毎日変わる(変わらないゴルフ場もある)
場所が変われば、攻め方も変わる。
100を切る程度のレベルになると、ピンの位置をキャディさんに聞くようになる。
120前後のゴルファーが「今日のピンは?」と聞くことを、日本では「僭越」という。
ピンの位置はキャディ・マスター室が管理している。
キャディ・マスター室には、18ホールそれぞれのピン位置を図示した紙が置いてあることもあるが、欲しくてももらえない。
ゴルフコースにはハザード(障害物)と総称されるバンカー、池、小川などがある。
コースの攻略を難しくすることで、ゴルフ上級者はプレーが楽しくなるが、ど素人にとっては、余計なお世話以外の何者でもない。
ハザードについて、メディアは「戦略的に配置されている」という形容をする。
戦略的といえば、忘れてはならないのが茶店だ。
プロツアーのテレビ中継では茶店が映らない。
だから、ゴルフをテレビで見るだけの人は、茶店のドラマを知らない。
茶店は、次がショートホール(パーが3打のホール)で、前の組がつっかえて、待ち時間ができる地点に戦略的に配置されている。
ほどよく喉が渇いたゴルファー、朝ご飯をしっかり食べて来なかった人は、
「おぉ、茶店、茶店」
と喜々として駆け込んでいく。
おでんを食べる人、ポカリスエットを飲む人、ビールを飲む人。
ゴルファーは財布を貴重品ロッカーに預けているので、コース内では現金を持っていない。
そこで、茶店の決済は、スコアカードに記されたナンバーと、自著のサインでおこなう。
「ここは、これにつけて」
4人のうちの年長者や気前のいい人が、こう言うまで、サインするのは待った方がいい。
茶店に入る前にトイレに行く、手を洗う、注文するのを悩む。
こうした戦略的遅延行為により、スポンサーの出現を待つ。
サッカーでは遅延行為は反則をとられるが、ゴルフの茶店にはペナルティがない。
「あと、キャディさんに何か」
茶店に寄ったら、キャディさんに付け届けするのがゴルフ界のしきたり。
スポンサーがそう言ってナンバーカードをさし出すと、茶店の店員が「じゃこれを」と言って、ポカリスエットなどを渡してくれる。
この時なぜか、冷蔵庫からではなく、後ろの棚から常温の飲み物を出すことが多い。
パチンコ屋の景品みたいに、あとで換金するシステムなのだろうかと、いつも不思議だったが、一度もそこはつっこめなかった。
店員さんから渡されたポカリスエットを、番頭格の若者がキャディさんに渡す。
ここではスポンサー自ら、プレゼンターになることは、みっともないということになっている。
「え~っとこれは、年長者で皆から一目置かれているスズキ部長からです」
と言った余計な講釈をしてはいけない。
自分が払ったわけではなくても
「よかったら、これ、どうぞ」
キャディさんは、こちらが一から十まで話さずとも、まるっとお見通しなのだ。
ある時「ありがとう」と ポカリスエットを受け取ったキャディさんが、その場で缶を開けて飲んだことがあった。
換金疑惑を頭に描いていたので、呆気にとられた。
あぁそれならば、冷えたのをもらってくればよかった。
飲み干したキャディさんの笑顔は、とても爽やかで可愛かった。
プロツアーのテレビ中継でも
ジャンボ尾崎が、ハニカミ王子に
「おぅ、ここはこれで」
とやって、ポカリスエットをおごるシーンを映してもらいたい。
ジャンボ「おでんも食うか?」
王子「はいっ 玉子 大好きなんで」
ジャンボ「マスターズ ・・ 頼むぞ」
こんなドラマがあれば、今日からゴルフも泣ける物語だ。
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