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2008年6月 5日 (木)

法律をつくる軸と使命

 ことばの定義はシンプルなだけではなく、日本の現実に即していることが求められる。
 首都ということばを例にとると、次のような違いがある。

首都
国を治める役所があるところ
(従来の辞典)

首都
行政府(内閣)がある都市。
2035年元旦に法制化された首都は東京。
(日本国用語集)

 言い切りの定義をまず書く。
 改行した後、補足事項を書く。
 当初、旧来の辞典に慣れている学者達からは「説明不足だ」「素人感覚にも程がある」という批判が相次いだ。
 それは、この用語集が慎重な言い回しや、注釈を付けずに書いているからだ。
 詳細に注釈をつけると結論、答えが見えにくくなる。
 専門用語で三つ編みにした官僚ことばは、一般人には理解できない。
 だから、言い切りの定義にこだわる。
 定義には例外がつきもので、重箱の隅をつつき始めたらきりがないのだ。

 夢に向かって努力する人
 =自らの使命を見つけて、実現に向けて努力する人がいる。
 それには普遍的なことばが必要だ。だが、ことばを習得するためには、圧倒的な知識を必要とする。それには、とても長い時間がかかる。
 この日本国用語集は、短時間で知識を習得する一助となる。
 そして、その内容には国のお墨付きがあるから、あげ足をとられることがない。

 人は「発信する人」と「評論する人」に分類される。

 評論に特化した人の攻撃は、発信者を疲弊させる。
 「あげ足とり禁止法」は、他人に不愉快な思いをさせる権利を制限する目標法。日本人が悪意に満ちた反論を恐れず、のびのびと発言できる社会を目指した。

 他人の上げ足をとってはいけません。
 反論は建設的な対論を持つ人に許される行為です。
 ものごとの本質の議論に対して、枝葉末節の議論をぶつけて混ぜ返すのはやめましょう。
(あげ足とり禁止法)

 一連の立法効果により、2038年のSR値は 39対61となり、34ポイント改善した。

 法律を作る軸と使命
 法令の開示はシンプル第一とした。
 従来法の条文は、まず見出しで始まり、条立て、章立てで列記されている。
 だが、中には条がなく項だけのものもある。
 中には「第一条ノ二」と「第一条二項」は別ものであるという、紛らわしいものもあった。

 そこで「法令公開法」により、IDO法はすべてハイフンつなぎに簡易化した。
 国会とIDOがつくる新設法令は、同一体系で採番されてカウントアップしていく。
 従来法は1条1項1号という旧表記のままなので、ハイフンつなぎのIDO法はひと目でそれとわかる。

 また従来法では、条項を跡形もなくする時は「削る」。その条項の中身を無いことにする時は「削除」と書いていた。これもややこしかった。

 従来法では、法令の条文は途中が抜けると、後続の付番を繰り上げる。
 一〇〇条ある法律の第三九条を「削る」と四〇条から一〇〇条はすべて、条の番号を繰り上げなければならない。

 コンピューター・システムの世界ならば論理削除(ユーザーからは見えなくなるが、ディスクには残っている)が当たり前。物理削除(完全消去)するのは証拠隠滅する時だけだ。
 新設した法令公開法では、無効とした条文は「削除」に統一した。その条文が欠番になるだけで、繰り上げ作業は無しとした。

 IDO法の名称や条文には、ほとんど外来語がない。
 わかりやすさからすれば、外来語を使った方がよい。その方が何も考えずにすんなりと耳に入ってくる。
 だが、法令はCMのキャッチコピーとは違う。
 日本に暮らすのならば、カタカナを日本語に言い換える妙を楽しんでもらいたい。
 もちろん“ミッションクリティカル=信用でき、消失すると甚大な影響がある”のように、日本語に言い換えると難解になるものは、外来語のまま使う。そこは臨機応変に対応した。

 「法令ウェブ公開法」により、全法令を法務省が「法令検索ウェブ」として公開した。
 従来法の場合、民法一条一章一項は、
 
http://www.*****/minpo/1_1_1.html
 IDO法の場合、民法1-1-1は、
 
http://www.*****/minpo/1-1-1.html
 ウェブで法令を見た場合、アンダーバーが従来法、ハイフンがIDO法というように簡単に見分けがつく。

 本来、憲法とは国と国民の約束を記した文書。
 国が国民に保証することや、国民に示す規範をしたためている。

 一方、法律は、憲法に沿った、人と人、国民同士の約束に当たる。

 だが、その約束の中身は「人を殺したら死刑かも」といった、罪刑ありきで処罰が規定されたものであり、なかには罰則がない法律も多い。

「NHKの受信料は放送法で支払義務があるけれど、罰則がないから払わなくても平気だよ」
という身勝手な解釈がそこに成立する。罰則がないのならば、法に従わなくてよいという人は少なくない。
 IDO就任時、自らの指針として、三つの軸、一つの使命を決めた。

 三つの軸
  一、人間として正しいか
  二、横着者の権利を制限する
  三、支配者の権益を作らない

 使命
 日本人が真っ当に生き、他人のために役立とうと思う社会にする。
 その社会の実現が僕の使命。これに見合う法律を作り、見合わない法律は作らない。

 三つの軸・一つの使命は、紙に書いて、執務机のコンピューター・ディスプレイのアームに貼った。5年経った今、日に焼けて縁の色が変わっている。

 僕が軸とするこれらの指針は公にしていない。ことばがそこにあると、人は思考を止める。ことばがあると、すべてわかったような気になってしまう。
 真実は想像の中になければならない。

三 IDO短信

 居室で 8:00に起きる。これまでの人生では通勤時間 10分ということはあったが、さすがに通勤時間 1分はない。
 私邸まで帰れば、往復で1時間を失う。警備も大変だ。
 ここにはトイレもあるし、ゆっくり湯船に浸かることはできないが、シャワーもついている。
 法務省に尋ねるとここで寝てもいいと言うので、二万円で折りたたみベッドを買ってきて、執務室の隣にある居室を住処にした。

 8:15 IDOラボに入り「アンパン」でコーヒーを淹れて飲む。
 アンパンはコーヒーメーカーにつけた名前。KLにいた頃の愛用品を持ってきた。渋皮を取るミル付きの機械を買い足して、ミルが二台になった時、アマさんのタバサの提案で名前をつけた。ニューヨーク時代から使っていたミルは「ドスサントス」と命名した。

 アンパンは住んでいた住宅街の名前。今となっては、アンパンでコーヒーを淹れるなんて紛らわしい名前をつけたと思う。
 KLでは変圧器をつけていたが、今は外している。電気製品は日本製しか使ったことがない。

 コーヒー豆は、ストレートとブレンドを各一種類ずつ、毎週届けてくれるブルースターコーヒーと年間契約している。
「自給可能食糧自給率一〇〇%法」により、自給可能な農産物はオール国産になったが、コーヒー豆は今も輸入が続いている。

 ここに来てからは出張というものがなくなった。
 毎朝同じところで起きて、コーヒーが飲めることに、いつも幸せを感じていた。
 出張がない人に、この気持ちは理解しづらいだろうが、家族がいる自宅に毎日帰れることは、とても幸せなことだ。

 朝食は中学生の頃から食べていなかったが、26歳の時、朝食は有害であるという説に出会って以来、自信をもって食べなくなった。
 「朝ごはん条例」を施行する町があるくらいで、日本では“朝食必要説”が圧倒的優位だ。
 でも僕は、自分が信じるものを取り入れる。だからといって、他人には押しつけない。

 IDOラボでの飲食は、すべて自前。
 自分のお金があるのだから、誰にも後ろ指をさされず、好きなものを買うという当たり前のことをしている。



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