法律をつくる軸と使命
ことばの定義はシンプルなだけではなく、日本の現実に即していることが求められる。
首都ということばを例にとると、次のような違いがある。
首都
国を治める役所があるところ
(従来の辞典)
首都
行政府(内閣)がある都市。
2035年元旦に法制化された首都は東京。
(日本国用語集)
言い切りの定義をまず書く。
改行した後、補足事項を書く。
当初、旧来の辞典に慣れている学者達からは「説明不足だ」「素人感覚にも程がある」という批判が相次いだ。
それは、この用語集が慎重な言い回しや、注釈を付けずに書いているからだ。
詳細に注釈をつけると結論、答えが見えにくくなる。
専門用語で三つ編みにした官僚ことばは、一般人には理解できない。
だから、言い切りの定義にこだわる。
定義には例外がつきもので、重箱の隅をつつき始めたらきりがないのだ。
夢に向かって努力する人
=自らの使命を見つけて、実現に向けて努力する人がいる。
それには普遍的なことばが必要だ。だが、ことばを習得するためには、圧倒的な知識を必要とする。それには、とても長い時間がかかる。
この日本国用語集は、短時間で知識を習得する一助となる。
そして、その内容には国のお墨付きがあるから、あげ足をとられることがない。
人は「発信する人」と「評論する人」に分類される。
評論に特化した人の攻撃は、発信者を疲弊させる。
「あげ足とり禁止法」は、他人に不愉快な思いをさせる権利を制限する目標法。日本人が悪意に満ちた反論を恐れず、のびのびと発言できる社会を目指した。
他人の上げ足をとってはいけません。
反論は建設的な対論を持つ人に許される行為です。
ものごとの本質の議論に対して、枝葉末節の議論をぶつけて混ぜ返すのはやめましょう。
(あげ足とり禁止法)
一連の立法効果により、2038年のSR値は 39対61となり、34ポイント改善した。
法律を作る軸と使命
法令の開示はシンプル第一とした。
従来法の条文は、まず見出しで始まり、条立て、章立てで列記されている。
だが、中には条がなく項だけのものもある。
中には「第一条ノ二」と「第一条二項」は別ものであるという、紛らわしいものもあった。
そこで「法令公開法」により、IDO法はすべてハイフンつなぎに簡易化した。
国会とIDOがつくる新設法令は、同一体系で採番されてカウントアップしていく。
従来法は1条1項1号という旧表記のままなので、ハイフンつなぎのIDO法はひと目でそれとわかる。
また従来法では、条項を跡形もなくする時は「削る」。その条項の中身を無いことにする時は「削除」と書いていた。これもややこしかった。
従来法では、法令の条文は途中が抜けると、後続の付番を繰り上げる。
一〇〇条ある法律の第三九条を「削る」と四〇条から一〇〇条はすべて、条の番号を繰り上げなければならない。
コンピューター・システムの世界ならば論理削除(ユーザーからは見えなくなるが、ディスクには残っている)が当たり前。物理削除(完全消去)するのは証拠隠滅する時だけだ。
新設した法令公開法では、無効とした条文は「削除」に統一した。その条文が欠番になるだけで、繰り上げ作業は無しとした。
IDO法の名称や条文には、ほとんど外来語がない。
わかりやすさからすれば、外来語を使った方がよい。その方が何も考えずにすんなりと耳に入ってくる。
だが、法令はCMのキャッチコピーとは違う。
日本に暮らすのならば、カタカナを日本語に言い換える妙を楽しんでもらいたい。
もちろん“ミッションクリティカル=信用でき、消失すると甚大な影響がある”のように、日本語に言い換えると難解になるものは、外来語のまま使う。そこは臨機応変に対応した。
「法令ウェブ公開法」により、全法令を法務省が「法令検索ウェブ」として公開した。
従来法の場合、民法一条一章一項は、
http://www.*****/minpo/1_1_1.html
IDO法の場合、民法1-1-1は、
http://www.*****/minpo/1-1-1.html
ウェブで法令を見た場合、アンダーバーが従来法、ハイフンがIDO法というように簡単に見分けがつく。
本来、憲法とは国と国民の約束を記した文書。
国が国民に保証することや、国民に示す規範をしたためている。
一方、法律は、憲法に沿った、人と人、国民同士の約束に当たる。
だが、その約束の中身は「人を殺したら死刑かも」といった、罪刑ありきで処罰が規定されたものであり、なかには罰則がない法律も多い。
「NHKの受信料は放送法で支払義務があるけれど、罰則がないから払わなくても平気だよ」
という身勝手な解釈がそこに成立する。罰則がないのならば、法に従わなくてよいという人は少なくない。
IDO就任時、自らの指針として、三つの軸、一つの使命を決めた。
三つの軸
一、人間として正しいか
二、横着者の権利を制限する
三、支配者の権益を作らない
使命
日本人が真っ当に生き、他人のために役立とうと思う社会にする。
その社会の実現が僕の使命。これに見合う法律を作り、見合わない法律は作らない。
三つの軸・一つの使命は、紙に書いて、執務机のコンピューター・ディスプレイのアームに貼った。5年経った今、日に焼けて縁の色が変わっている。
僕が軸とするこれらの指針は公にしていない。ことばがそこにあると、人は思考を止める。ことばがあると、すべてわかったような気になってしまう。
真実は想像の中になければならない。
三 IDO短信
居室で 8:00に起きる。これまでの人生では通勤時間 10分ということはあったが、さすがに通勤時間 1分はない。
私邸まで帰れば、往復で1時間を失う。警備も大変だ。
ここにはトイレもあるし、ゆっくり湯船に浸かることはできないが、シャワーもついている。
法務省に尋ねるとここで寝てもいいと言うので、二万円で折りたたみベッドを買ってきて、執務室の隣にある居室を住処にした。
8:15 IDOラボに入り「アンパン」でコーヒーを淹れて飲む。
アンパンはコーヒーメーカーにつけた名前。KLにいた頃の愛用品を持ってきた。渋皮を取るミル付きの機械を買い足して、ミルが二台になった時、アマさんのタバサの提案で名前をつけた。ニューヨーク時代から使っていたミルは「ドスサントス」と命名した。
アンパンは住んでいた住宅街の名前。今となっては、アンパンでコーヒーを淹れるなんて紛らわしい名前をつけたと思う。
KLでは変圧器をつけていたが、今は外している。電気製品は日本製しか使ったことがない。
コーヒー豆は、ストレートとブレンドを各一種類ずつ、毎週届けてくれるブルースターコーヒーと年間契約している。
「自給可能食糧自給率一〇〇%法」により、自給可能な農産物はオール国産になったが、コーヒー豆は今も輸入が続いている。
ここに来てからは出張というものがなくなった。
毎朝同じところで起きて、コーヒーが飲めることに、いつも幸せを感じていた。
出張がない人に、この気持ちは理解しづらいだろうが、家族がいる自宅に毎日帰れることは、とても幸せなことだ。
朝食は中学生の頃から食べていなかったが、26歳の時、朝食は有害であるという説に出会って以来、自信をもって食べなくなった。
「朝ごはん条例」を施行する町があるくらいで、日本では“朝食必要説”が圧倒的優位だ。
でも僕は、自分が信じるものを取り入れる。だからといって、他人には押しつけない。
IDOラボでの飲食は、すべて自前。
自分のお金があるのだから、誰にも後ろ指をさされず、好きなものを買うという当たり前のことをしている。
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