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2008年6月27日 (金)

「週刊法律」「週刊新法」「週刊法律ニュース」

 週刊誌
 1 週刊法律 90万
 2 週刊新法 70万
 3 週刊法律ニュース 40万

 これが2039年 4月の部数ランキング。
 僕は三誌とも私費で定期購読している。名古屋生まれの水野淳一は「買うのはもったいない」と言って、いつも部活の時にここで読んでいる。
 IDOが作る法律を解説する週刊誌は三誌。就任した2034年10月に「週刊法律」が創刊。3か月後に「週刊法律ニュース」。1年後に「週刊新法」が出た。

 誌面では条文・罰則・ポイント、法律の意図、見込まれる効果などを図表やイラストを使って解説している。あとは、専門家のコメント、芸能人の声、立法後の社会の変化を分析するなど、各誌がアイデアを競っている。
 「週刊新法」には学生の時の仲間がいる。「報道署名法」により、雑誌はすべて署名記事となったので、名前を見てすぐわかった。「週刊新法」は、一つのテーマについては、毎回同じ図を使うようにしていて、これがとてもわかりやすい。
 図については、総合日本商事にいた時、他人がリーダーを務めるプロジェクトで、とても苦労したことがあった。

 「サンジョルディに本と映画を売ろうプロジェクト」は、1980年代に失敗したプロジェクトの40年ぶりのリバイバル。
 まずはデイリービュー10,000以上のブログ・アイドル200人に、マンツーマンで専属ライターを張り付ける。ライターがブログに合った作品レビューを書き下ろして、それをアイドル自身のことばとしてブログに書いてもらう。それを読んだ女の子が、キャンペーン・バナーから商品を男の子に贈ると、ペアで「文豪セルバンテスの故郷スペイン・カタルーニャ 14日間の旅」が当たる。ブロガー側にはメリットとして、5割り増しのアフィリエイト収入がはいる。
 長期の休みをとることができて、小銭を持っていて、恋愛まっただ中という18歳から22歳女性をターゲットにした企画そのものはよかった。

 だが、プロジェクトマネジメントがひどかった。
 進行表だけもでPND、時系列、マイルストーンの3つ。費用対効果の試算表は4通り。業務フローは3通り。マニュアルは3人の担当者がそれぞれ、ウィンドウズとマックとリナックス環境で作るので、ソフトも全部違う。極めつけはプロジェクト組織図。プロジェクト・オーナー、マネージャー、リーダーがそれぞれ別々に作るから3種類。僕の役割は 3つの表ですべて違っていた。
 メンバーはわずか10人だが、いずれも「できる男」と言われていた精鋭揃い。だが、それがよくなかった。僕が、書式やプラットフォームを統一しようと言うと、異口同音「そんな枝葉末節にこだわるならば、僕は降りるよ」と言い出す始末。
 キャンペーンは 2か月遅れで開始にこぎ着けたが、始まった頃には、学生は春休みの計画を立て終えており、見向きもされなかった。

 プロジェクトで、メンバーの共通理解を得ること。
 メディアを通して、国民の共通理解を得ること。
 この二つの本質は同じ。
 共通理解を得るためのポイントは軸を動かさないことだ。

 仕事の軸となるのは資料、図表のフォーマット。
 一つのテーマを語り継ぐとき、ずっと同じフォーマットを使い続ける。上下左右の軸を替えてはいけない。できれば色も変えない方がいい。人は間違い探しが好きだ。二つの絵には七つの違いがありますと言えば、皆喜々として探し始める。フォーマットを固定して、前回と変わったところはどこかを探す。人はそのような思考に慣れている。
 「週刊新法」には、そこのところをわかっている記者がいるのだろう。

 毎週、最低5つは出てくる新しい法律を知らないと、いつ収監されるかわからないというわけではないだろうが、法律週刊三誌はよく読まれている。すべての公立図書館とほとんどの喫茶店、美容院などが常備していて、磯田祐子や別府京子が言うには、皆、争うように読んでいるそうだ。

 「へぇ、今度はこんなのできたんだぁ」 (たくさん作るからね)
 「これこれ、こういうの欲しかったんだ」 (通販じゃないっての)
 「IDOって、オタクっぽいよね」 ( … )
 いつも、祐子と京子が“街の声”を拾ってきて教えてくれる。法律というキーワードで、人々が社会のことを会話している。レベルなどは問題ではない。こういう状況を作りたかったので、微笑ましく聞いている。
 「法令web」のページでは、すべての法律がキーワードで全文検索できるようになっている。ただし、官報のような刷り物、解説書の類は一切作らない。そこは報道各社、版元の腕の見せどころとして残してある。

 部活に終わりの時間は決まっていない。
 ただいつも20時をまわると、自然発生的に後かたづけが始まる。コップやお皿は使い捨ての物は使わず陶器を使っている。皆が故郷や旅行先から名器ばかり買ってくるので、見る人が見たら怖くて触れないような食器を平気で重ねて流し台に運ぶ。ここでは、俺の方が洗う皿が多いとか、私はこの間も洗ったのに損だとか言う人はいない。
 中締めの挨拶や一本締めがあるわけではなく、片づけが終わると「お疲れさまでした」「失礼します」と一声かけて、それぞれの家族や恋人の元へ帰って行く。
 ただ関西三人娘の一人、西直子の挨拶だけが違う。
 「さようなら」
 僕はどきっとする。もう二度と会えないような恐怖を覚える。彼女にとっては、そのことばがしっくりと来るのだろう。さようならと言われていつも、あぁと答えを濁してしまう。

次回は6月30日(月)に掲載します。

「独裁者」もくじ

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