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2008年7月 8日 (火)

10月31日は「コスプレの日」

【教諭レベル維持法】
 数学の授業で、先生が生徒から解法の誤りを指摘される。
 国語の授業で、先生が生徒から誤字を指摘される。
 このようなことは1990年代から始まり、2000年代には研修の強化策が実施された。

 「先生たちは、お前らと違って忙しいんだ!」と居直る出世・命のエリート教諭たち。
 「へぇそうなの初めて知ったわ。すごいね!先生が知らないこともっと教えて」
生徒と一人の人間として接していく新米女性教諭。
 元アイドルの竹本梨香が主演した2010年のテレビドラマ「三年C組イカサマ先生」この人気番組で、教諭の体たらくぶりが、おもしろおかしく世間に知れ渡った。

 1991年度より、すべての小中高で学級定員が45人から40人となった。2012年度からは30人学級が実施された。
 少数指導をめざして2001年度から教職員定数改善計画が始まり、5年で252,500人の教諭を増員。2010年からの5年計画では5万人を増員した。
 行政の施策により教諭の“量”は足りており、新卒の質も落ちていない。落ちていたのは"既存の教諭の質"だった。

 「教諭レベル維持法」により、新規採用合格者は、学校卒業後に 1年6か月間「教諭学校」で研修を受ける。修了後の9月に赴任先へ仮配属されて、半年後に正式配属となる。またすべての教諭を対象に、5年に1度、教員免許試験の更新試験「教員定期試験」を行う。

 これは裁判官・検察官・国家公務員・地方公務員も同様で、それぞれの分野に関する基礎学科試験を受け、得点率が80%に満たない者は資格を停止され、再試験に回る。再試験は1か月に1度で、3ヶ月行われるが、その3度のチャンスでパスできない場合、直近の一般採用試験に回ることになる。

 この法律は珍しく、公布から施行までの間隔を広く空けた。
 2035年4月に公布。教諭学校の開校と第一回定期試験(初年度は60歳代から)は2037年度スタート。2年の準備期間を与えている。目的はレベルの維持であり、人員整理ではないからだ。

 中学の同級生だった俵山は、山口県とよだ町で中学校の数学を教えている。SNSのとよだ町コミュニティで30年ぶりに再会した。
 とよだ町は蛍で有名な町。毎年夏にはホタル青年団が結成されて、川の清掃や蛍の生息調査を行う。ホタル青年団のリーダーを、もう10年務めているという彼は、もっぱら、趣味の登山と豊田湖での釣りに精を出しているとプロフィールに書いていた。

 「教員定期試験」の対象は、10歳刻みで降りていく。2039年の今年、40歳代の俵山に定期試験の順番が回ってきた。5月の試験で落ちた彼は、8月の3次追試でもパスできず、9月の一般教員試験に回った。だが「教員定期試験」と比べれば、新採用の教員試験は格段に難しい。資格停止中は授業を持たない管理職を除いては出勤できない。彼は今、宅配便会社で荷分け作業のアルバイトをしながら、9月の一般教員試験に備えているという。

 「学校だけならええけど、部活やボランティアもあるけえ、俺ら、勉強やらする時間ないほよ。IDOさんは、もうちょっと現場を知ってもらいたいんやけどなぁ」
 IDO法による守秘義務のため、僕がIDOであることは身内にも伝えていない。

 「教員定期試験」で実施する科目は、その教諭が実際に教壇に立つものに限られる。専門科目の教諭はその科目。小学校でクラス担任をもつ教諭は算数、国語の2教科のみ。
 3次追試での俵山の得点は69点。同時期に行われたとよだ中学校1年生の定期試験「数学」の平均点は72点だった。出題内容こそ多少違うものの、教える側である俵山のレベルは、教え子並みということになる。
 俵山は自分の学校だけでなく、地域の子どもたちまで目配りしている。言わば真っ当に生きている男だ。その真っ当な男から職を奪うのは忍びない。倹約を強いられる家族は不憫だ。
 だが、彼は自分が公務員であるということを忘れてはならない。俵山は労働の対価として自分に投入されている税金が、いったい何を期待しているのかという原点に戻ってほしい。

 festival 祭り
 【コスプレ外出の日法】
 毎年10月31日は、コスプレで外出しなければいけない。

 コスプレのテーマは自由。サラリーマンはいつものスーツではなく、コスプレで電車通勤しなければならないし、教諭はコスプレで授業をしなければならない。目標法の1つであり、遵守しない者はマイナス1,000ポイントとなる。

 施行後、初のコスプレの日となった2035年10月31日。
 鉄道とバスは朝から混雑していた。乗車率は平日の20%アップ。
 ホームは人で..いや着ぐるみで溢れていた。

 いつもは体の密着を厭わぬ男女が、この日はなぜか人と間隔を置いている。いつもの電車に乗れずに見送るサラリーマン。遅刻件数は史上最高を記録した。
 「いやぁ長女が、これが一番無難だって言うからね」
 圧倒的に東急ハンズで買ってきた、黒いアフロヘアと革ジャンでラッパーのつもりというコスプレが多い。東急ハンズが売り出した「コスプレの日セット」の中では、これが398円で一番安かったからだ。
 女性はハロウィンお約束、黒いマントを羽織った魔女が多い。
 この日のためにサマンサタバサが発売した、ジャックオーランタン型トートバッグを5人に1人が持っている。いろいろと物いりだろうからと、かなりの廉価で発売してくれた。
 「これって毎日使ってもいいかなぁ」20代のOLはとても嬉しそうだ。

 こういう時、話し相手がいる人は幸せだ。
 年の頃、50歳前後、冬服セーラー服の紳士は、なぜそこに至ったのだろうか。
 それが人生の夢だったのだろうか。
 眉間に深いしわを刻み、誰に向けるでもない怒りを満面にたたえて独り立ちつくす。
 何度でも言いたいが、なぜ、セーラー服なのだろう。僕が子どものころ、そういうおじさんが街で歌っていたことはあるが・・・

 出勤時の独りぼっちがよほどこたえたらしい。
 夕方5時のチャイムが鳴ると、残業禁止法により加業のないサラリーマンたちの間では、退社方角別の集団下校ならぬ「集団帰宅」が催行された。

 「横浜方面、入沢さんについてきて!」
 「千葉方面はどこ、え゛っ? もう行っちゃったの?そんな殺生な~」
 施行2年めからは、計画的に出勤の集団出社も企画されるようになった。

 コスプレの日、全国の小学校はパニックに陥っていた。
 全校集会は警察署から借りてきた「ピーポ君」で決めた校長の訓辞で始まる。

 「おはよう!ピーポくんです。あ、ちがうか」
 ピーポ君の声色に、この時点で多くの子どもが腹痛を訴えた。

 ほとんどの女性教諭は、レオタードで授業をしている。
 いやよく見るとスクール水着だ。
 水着だとコスプレにならないと思ったのか、スパンコールをふりかけて、手にはボールやリボンを携えている。新体操のつもりらしい。
 よく見るとリボンではなく鞭の先生もいる。鞭はいかんでしょう鞭は...

 男性教諭はほとんどがボンデージや、昔はやったフレディ・マーキュリーのぴたもっこりスーツだ。

 「コスプレの日」を作った時、僕は肝心なことをすっかり忘れていた。
 かつて、佐賀で姉の結婚式に出た時、教諭仲間がコスプレの寸劇を始めたことがあった。先生のMCがはいる。
 「佐野先生おめでとうございます!今日は教員一同でオリンピックを再現して、お祝いに花を添えます」
 ここで帰りたくなった。

 海パンでじゅうたんの上を泳ぐ男性教諭。
 レオタードでラインダンスを踊る女性教諭。
 それのどこがオリンピックなのか。

 僕と同じ公務員とは思えなかった。
 彼らにも恐らく羞恥心というものはあるのだろう。だが、僕の考えるそれとは格段に次元が違う。羞恥心という概念も、多様なのだということを学んだ。

 WEBの投書箱「僕が独裁者になったら」には、翌日全国の小学生から「先生のコスプレだけは禁止する法を作ってください」という意見が2,000通ほど寄せられた。父兄からは「公務員は変態をしてはいけない法をお願いします」という投書が200通ほど寄せられた。利害関係に疎い子どもの方が、言いたいことが言えるのだ。
 IDOを5年間やってきてこの法ほど、人と人の板挟みに苦しむ中間管理職の痛みがわかったことはない。



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