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2008年7月10日 (木)

おやつ禁止法

 IDO室での法案ミーティングでは、この法律が一番うけた。
 「6月21日はコスプレの日にする!」と言った途端、19人中2人が椅子から転げ落ちた。そのリアクションがとても嬉しかった。そして、猛烈な質問攻めにあった。関連提案数も、恐らくこの法律が一番多かっただろう。

 「基本的なことなんですが、どうしてコスプレなんですか?」
 関西三人娘の一人、経産省の西直子が大阪弁イントネーションでつっこむ。

 人には好きか嫌いかがあると思うんだ。
 こういうことは好きだけど、これは絶対パス!まるで運命で決まっているかのようにね。人は宿命の元に生きるけれど、運命は決まっているわけじゃない。毎日、目の前に訪れる分かれ道を、右に行くか左に行くかって選んでいく。そのルーティング次第で、運命は自分が変えていく。
 日本人の大半が、コスプレなんて一生せずに終わるのが人生だと思っている。だから、ちょっと風穴を開けてみるのはどうかなって思ってね。

 「それ、今つくったんでしょ?」西直子との掛け合いがつづく。
 あ、わかった?
 IDO室が結成してしばらく経つと、彼らもつっこみどころを心得てきて、ミーティングはいつも笑いに包まれる。法律の話しは、辛気くさい顔をしてしなければならないという法律はない。人が笑顔になれる法律だと思ったら、少々奇抜でも、みんなに諮るようにしていた。

 「きっと毎年同じコスプレになりますよ。来年は“二年連続同一テーマは禁止”の一文を入れましょう」
 そうだね
 「特定の部位を露出したい人が、出した場合、それはコスプレですか?」
 「あれはコスチュームとは言わないだろう」
 コスチュームでプレイするのが基本だから、脱ぐだけというのは禁止した。

 僕としてはコスプレ=ハロウィンという月並みな設定は避けたかった。最初に6月21日と提案したのは、6月は祝日が一つもないし、梅雨でうっとうしいから、何か楽しいことでもとしよういうことだ。今イチ弱いなぁという彼らの顔色を見ながら、じゃ  4月4日はどう?と水を向けると、何かの映像がよぎったのか、全員が一斉に首を横に振った。そうしてIDO室メンバーの武士の情けで、無難なコスプレが許される唯一の日、ハロウィンに落ち着いた。

 food 食糧
 【クジラをもっと食べる法】
 日本は農産物輸入量世界一を続けてきたが「自給可能食糧自給率100%法」により、自給できるものまで海外から入れるのをやめた。
 農産物に高い関税をかけると、外国からは保護貿易だと非難され、国内からは農民の票欲しさだと揶揄される。
 だが、世界には食糧問題というものがある。世界には、太りすぎが死亡原因第二位の国がある。一方では、依然として世界の40%の人々は満足に食べていない。
 「クジラをもっと食べる法」では、日本漁船で捕獲できる魚の輸入もやめた。

 施行当初、漁獲量が減っているのに、輸入をやめてどうするという批判があったが、これはクジラを捕ることで解消できた。
 1853年、鯨油を潤滑油に使っていた大国が来航。捕鯨寄港地確保のために、日本に開国を迫った。だが時代が変わり鯨油が不要になると、1982年には環境団体と手を組んで、商業捕鯨停止を決めた。

 農林水産省の努力が実り、2033年にようやくIWCで賛成国が4分の3を超え、50年ぶりに商業捕鯨が復活した。
 50年間獲らなかったためにクジラは増えつづけ、人間の3倍の魚を補食していた。
 「漁獲量の激減は、クジラを捕らないからだ!」
 かつてIWCの席で、どれだけ農水省がデータを元に主張しても、太りすぎでたくさんの人が死んでいる国は耳を貸さなかった。

 「クジラをもっと食べる法」の条文には、クジラをたくさん食べましょうという文言はない。
 日本漁船が捕獲できる魚の輸入を中止する。
という一文があるだけだ。輸入で魚が入ってこない。だからまず、クジラを獲る。クジラを獲れば、クジラによる魚の捕食が減る。そして、漁獲量が増える。結局、魚の輸入は不要となる。日本人は以前より安く、日本の漁師が獲った魚を食べられるようになった。
 これら立法の意図は、室内ミーティングとブリーフィングでしか話していない。謎かけのような法令は、メディアが大きく取り上げて話題になり、クジラを食べることで、魚はもっと食べられるということが伝わった。

 【おやつ禁止法】
 子どものおやつを禁止した。小学5年生から大学院までの就学者に、間食を与えてはいけない。本人が購入することは規制しない。
 幼少期、ご褒美として食べものを与えられていた子どもは、大人になってからも食べ物に依存する。
 「このチョコとポテチが、今日のご褒美なの」
 「あとでお菓子が入らなくなるから、ご飯要らない」
 ジャンクフードに依存した人生は暗い。いつも食べている人は太っているし、顔が辛気くさいのですぐわかる。本人も自覚しているのだが止められない。
 菓子メーカーには、次世代を担う日本の子ども達の育成という視点から、三食のなかで摂る製品の開発をお願いした。これには、田中一徳と西直子が所属省庁の文科省、経産省と粘り強く折衝して、二つの省による連名文書を作ってくれた。

 また“ジュースの過剰な摂取が暴力につながる”というデータを参考にして、18歳未満へのジュース販売を禁止した。隠れて飲むところまでは規制できないが、それは従来から禁止されていたタバコと同じ。売った側に役務 5万ポイントを科した。
 ミネラルウォーターと烏龍茶は禁止しなかったが、糖分のはいったスポーツドリンクは禁止。小売店団体から経産省に対して、わかりづらいから改善して欲しいと陳情があったので「販売規制飲料赤パッケージ法」で禁止飲料のパッケージは赤系統の色、そうでないものは赤を使わないとした。

 IDOは業界団体とパイプを持たないので、各省からの報告はIDO室の各省担当者経由で、立法ミーティングに上げてもらっている。
 環境カテゴリーの「ジュース容器は紙パック法」により、缶ジュース、ペットボトル飲料の製造は禁止。炭酸飲料に限り、ペットボトルを認めた。



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