SNSで知り合った東大の彼女
世界に一つの教科書ソフト「世界の社会」の編集は、平坦な道のりとは言えなかった。
ライター同士で、意見の対立が絶えない。
日頃は温厚で分別ある学者や歴史小説家なのだが、特定の事実について、これだけは譲れないというこだわりを発端にして、諍いが起こる。そうなると、プロジェクトルームは、500年の時を越え、さながら銃をペンに持ち替えた戦場と化す。本当にペンをダーツ代わりに投げた学者もいた。
亡くなったジェシカが、ある国のライターから、人種、性別、史実に関する陰湿な脅迫を受けつづけていたことを死後に知った。
中学校での哀しい事件から20年。もう同じことは繰り返さないと自信があった。自分の能力を発揮できなかったことに愕然とした。
世界の子ども達が、僕らの作ったソフトで目を輝かせる未来、世界が産業革命を迎えようとして、町が騒がしかった500年昔の映像、そればかり見ていて、目の前にいる人の映像を見てあげられなかった。
人生で二度目、またも予期せぬ挫折だった。
ジェシカのご両親は僕を怨むだろう。僕がこのプロジェクトを起こさなければ、彼女が死ぬことはなかった。僕が彼女を注意して見ていれば、手を打つことはできた。またも、身近な人が死を選ぶことを止められなかった。僕の力は社会には活かされていたかも知れないが、目の前の人を救えなかった。こんな僕に生きて行く価値はあるのか。次こそは僕の番ではないのか。
僕は闇との会話にはまっていった。
そんな時、僕を救ってくれたのが、next wave さんの言葉だった。
彼女とは 6年前、SNSの東大法科大学院コミュニティで知り合った。東大に入ったばかりという彼女は、先輩OBの僕をとても尊敬してくれた。
リュウ、元気ですか?
辛いときの脱出方法。難しいよね。
前に少し話したけど、私、高校のとき軽いうつになって、
学校を休んでばかりいたのね。
その時、親友のマリ子ってコが
『何もできないなぁって時は音楽を聴くといいよ!
ダマされたと思って聞いてみな』って、言ってくれたの。
音楽はいつも聴いてたつもりだったけど、
言われてみれば、辛くなってからは、ご無沙汰してたの。
それで聴いてみたら、なんだかとっても楽になったのね。
今だって凹んだ時は、今のリュウみたいに何もできなくなくなるけど..
そういう時こそ、無理をしてでもプレーヤーのスイッチを押すの。
音楽は不思議でね、聴いてるだけで不思議な力が湧いてくるよ。
音楽お勧めです。やってみて!
あんまり頑張らないように!
next wave
彼女はどこか、人の心を見通しているようなところがあった。それは、僕に近いものに思えた。それを、糸でつながっているというのかも知れない。彼女の助言はいつも的確だった。
僕は23歳頃まで毎日のように聴いていた音楽を、買い集めて聴いた。音楽の力は絶大だった。音楽を聴き、本を読んでいると、その間は時の流れが穏やかになり、闇との会話をせずに済んだ。
「今できることをやればいいよ」
彼女の言うとおり。音楽は、何ごとも起こらない平穏な今、この時こそが幸せなのだと教えてくれた。
どんな状況にあっても、人は音楽を聴くことはできる。気力を振り絞る必要はない。ただ、スイッチを押すだけだ。
出会ってすぐから、彼女に一度会いたいという気持ちが募った。彼女も僕が「会おう」ということばを待っているのではないか?そう何度も自問自答した。でも結局、一度も誘わなかった。そして、僕はニューヨークへ渡った。
僕がユニセフでの敗戦処理を終え、クアラルンプールのFEに出戻りした年の秋、彼女から「結婚します」というメールが届き、連絡は途絶えた。
僕はその姿を追うことなく、忘れることを選んだ。
音楽は力。
その力は深い絶望の淵にいる時だけ、威力を発揮するのではない。
日々、音楽を暮らしに取り入れることで、心に青春を維持できる。
business ビジネス
【残業禁止法】
2010年、サラリーマンの平均帰宅時間は、
米国 17:30
日本 21:00
3時間半の開きがあった。
25年後の2035年には経済情勢を反映して、
米国 18:30
日本 20:30
その差は2時間に詰まってきた。
そして「残業禁止法」施行後は、日米共に18:30となった。
平均退社時間は17:30。会社は早く出ても、住宅事情は急には変えられない。首都圏の通勤時間は依然として平均70分であり、そこが短縮されない限り18:30の壁は破れない。
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