ゴマ鯖は4人で5つ
ゴマ鯖五つね
「え? 四人さんですよね」
あ、ごめん。僕が二つ食べたいから。
今頃、IDO室の18人は福岡市南区の「大橋本陣」で呑んでいる。
「うちの鳥皮はかりかりで美味いですよ」
焼鳥屋の長男、田中君のことばには心惹かれたが、走る前の日は呑まないんだと言っておいた。
本当のところは、博多に帰ったらゴマ鯖と決めている。
「IDOラボのフルメンバーが博多に行くのに、私だけ行かないってのは無しですから」
と幸田さんが言い出したのは昨晩。
二人きりならば、僕にとって10年ぶりのデートだったが「表で待機しますから」というSP二人も、近くにいた方がガードになるよと言って一緒にテーブルを囲んだ。
「鉄なべ」のゴマ鯖は、豊後水道で獲れた鯖と五島で獲れた鯖、どちらかその日揚がった方が鉢に乗る。
僕には五島で泳いでいる姿がみえた。
あなたにも、五島の海が見えていたのではないだろうか。
明けてマラソン大会当日。博多の空は快晴。
博多マラソンの開催日は観光戦略として、山笠期間中の土曜日開催で固定される。
締め込みで粋に決めた男衆をちらほらと見かける。
「法被は脱いで下さい。ゼッケンが見えんばダメです」
「せからしか。山笠のあるけん博多たい」
「だめです」
「なんか、マラソンていうとは難しかね。まぁよかたい。どうせトラック一周したら帰るっちゃけん」
しぶしぶ法被を脱ぐ清水さん50歳を、仲間が「声が大きい」と唇の前で人差し指を立てて諫めている。
さっきから壇上では、野田県知事の挨拶が続いているのだが、ランナーはストレッチかMUTに余念がなく、ほとんど誰も聞いていない。
「実行委員」と書かれた腕章を左手に巻いた中野君が、僕をみつけて、さり気なく横にすべり込んで来た。右手にウルトラスポーツ社のウィンドブレーカーを持っている。
あれ、中野君は走らないの?
「えぇさすがに」
これですからと、腕章をこちらに見せる。
「それより、IDO 博多の皆さんに一言どうです?」
そうだね。いいの?
僕は即答する。何もかも予定されていたかのように。
さぁ驚いている場合じゃない。彼は間髪を入れずインカムに叫ぶ。
「こちら中野。進行岩橋へ。来賓挨拶一つ入れて。この後すぐ!」
「こちら岩橋です。中野さん。誰がですか。きいとらんですよ。なんて言えばいいとですか?」
「ここで臨時ゲストですって言うとけ!」
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