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2008年8月21日 (木)

ゴマ鯖は4人で5つ

 ゴマ鯖五つね
 「え? 四人さんですよね」
 あ、ごめん。僕が二つ食べたいから。

 今頃、IDO室の18人は福岡市南区の「大橋本陣」で呑んでいる。
 「うちの鳥皮はかりかりで美味いですよ」
 焼鳥屋の長男、田中君のことばには心惹かれたが、走る前の日は呑まないんだと言っておいた。

 本当のところは、博多に帰ったらゴマ鯖と決めている。
 「IDOラボのフルメンバーが博多に行くのに、私だけ行かないってのは無しですから」
と幸田さんが言い出したのは昨晩。

 二人きりならば、僕にとって10年ぶりのデートだったが「表で待機しますから」というSP二人も、近くにいた方がガードになるよと言って一緒にテーブルを囲んだ。
 「鉄なべ」のゴマ鯖は、豊後水道で獲れた鯖と五島で獲れた鯖、どちらかその日揚がった方が鉢に乗る。
 僕には五島で泳いでいる姿がみえた。
 あなたにも、五島の海が見えていたのではないだろうか。

 明けてマラソン大会当日。博多の空は快晴。
 博多マラソンの開催日は観光戦略として、山笠期間中の土曜日開催で固定される。
 締め込みで粋に決めた男衆をちらほらと見かける。

 「法被は脱いで下さい。ゼッケンが見えんばダメです」
 「せからしか。山笠のあるけん博多たい」
 「だめです」

 「なんか、マラソンていうとは難しかね。まぁよかたい。どうせトラック一周したら帰るっちゃけん」
 しぶしぶ法被を脱ぐ清水さん50歳を、仲間が「声が大きい」と唇の前で人差し指を立てて諫めている。

 さっきから壇上では、野田県知事の挨拶が続いているのだが、ランナーはストレッチかMUTに余念がなく、ほとんど誰も聞いていない。

 「実行委員」と書かれた腕章を左手に巻いた中野君が、僕をみつけて、さり気なく横にすべり込んで来た。右手にウルトラスポーツ社のウィンドブレーカーを持っている。

 あれ、中野君は走らないの?
 「えぇさすがに」
 これですからと、腕章をこちらに見せる。
 「それより、IDO 博多の皆さんに一言どうです?」
 そうだね。いいの?

 僕は即答する。何もかも予定されていたかのように。

 さぁ驚いている場合じゃない。彼は間髪を入れずインカムに叫ぶ。
 「こちら中野。進行岩橋へ。来賓挨拶一つ入れて。この後すぐ!」
 「こちら岩橋です。中野さん。誰がですか。きいとらんですよ。なんて言えばいいとですか?」
 「ここで臨時ゲストですって言うとけ!」



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