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2008年8月29日 (金)

呼び出しに応じなければ、虐めはエスカレートする

 学校の先生と、クラスの女の子から人気があった銀次は、不良グループの格好の餌食となっていた。
 「賞をとって、調子に乗っている」
 「女にちやほやされて、いい気になっている」
 そう言っては、銀次を放課後の屋上に呼び出した。
 呼び出しに応じなければ、翌日さらに、虐めはエスカレートするだけのこと。
 銀次は逃げることなく、呼び出しに応じ続け、抵抗することもなく、いたぶられ続けた。

 毎日のように死刑台に向かって、階段を上っていた銀次の映像。
 僕に精神の体力がつくほどに、その一コマ、一コマは薄れていくのだが、消しゴムで消すようにきれいには消えない。
 今も、銀次の残像がうっすらと残っている。

 あの絵はおいが持っとぉとよ。ずっと誰にもやられんて隠しとった。
 この店に来ると、ゴマ鯖の後にいつも食べる「地鶏皮の酢の物」をつまみながら、僕は打ち明けた。

 「よかよか、あんたが持っとくとが一番よか。あん子もそいがよかろう。銀次はいつでん、兄ちゃん、兄ちゃんってついて回りよったけんね」
 母のことばを継いで、姉も頷いてくれた。
「そうたい。あんたら仲んよぉして羨ましかったよ」

 僕の使命である「日本人が真っ当に生き、他人のために役立とうと思う社会にする」は、ことばを替えると、人々が少ないことに満足し、身の丈で生き、他の人や他の国を脅かさない社会。

 誰もが横着をせず、人に迷惑をかけることを恥じる真摯さを持つ。
 そして、その日本人の姿勢が世界中の人から尊敬される。
 ある一定の人々がそう考え始めたら、ある時点を境に一気にその流れは広がる。僕はこの五年間で、その流れに棹さす役割を果たそうと思い、やってきた。

 連想
 お盆休み明けの水曜日、クラブ活動の日。
 今日は年に一度、お国自慢のお土産が出そろう日。
 この日はお昼の立法ミーティングから、メンバーの笑顔が多い。

 郷里の上五島に帰ってきた永田久美子はかんころ餅を持ってきた。
 早速、田中一徳が囓りつく。
 「あぁあ、それ焼くとよ」
 「はよ言わんか。固か~。こないだのからすみは煮たらいかんていうし、長崎ん食べもんはナマかと思おうが」

 博多出身の田中一徳と、五島出身の永田久美子。
 二人は「九州弁普及大使」を自認していて、全国どこに出張しても九州弁で通しているらしい。
 部活のメンバーもおもしろがって真似している。

 「IDOは訛り、でませんよね?」
 なんにでも興味津々「なぜなぜゆうこ」の異名をとる磯田祐子がつっこむ。

 そうだね、子供の頃に転校が多かったからね。
 転校したその日には、その土地のことばで喋っていたから、順応力がついちゃったんだ。
 今もこうして博多の一徳には博多弁が出そうになるし、章子には山口弁が出そうなんだよ。
 昔はいじめ禁止の校則もなかったから、アクセントが違うっていうだけで虐められたからね。

 「へぇ、IDOって山口にもいたんですね」
 本当ならば、食いつきたいネタなのだろうが、言ったあと表情がくもった僕を、章子は気遣っている。

 祐子が躍り食いの車エビを指でつついている。
 一徳が車エビの養殖をしているという熊本の親戚からもらってきた。
 おがくずを敷いた発泡スチロールの箱を、博多から飛行機の手荷物で持ってくるとは恐れ入る。

 「私、今週食べてないから、いただきまーす」
 「あ、俺は実家で出たな・・」

 「エビ・マグロを時々食べる法」は、エビは週一、マグロは二週に一度を越えて食べないように求めている。



次回は9月1日に掲載します。

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