国家公務員を目指す人がいなくなる
太田IIDOは、池田氏に「ガン細胞限定攻撃装置」プロジェクト・リーダーを依頼したその足で、奥様の池田恵子氏が勤務する名古屋ケアセンターへ乗り込んだ。
「あなたの決断に、日本人の未来がかかっているんです」
今もその第一声は語りぐさになっている。
名古屋ケアセンターの大橋社長は突然の来訪者に「東京から、やばい筋の御仁がこりゃーしたなぁ」と思ったという。
幸い大橋社長は、大きい話と人に頼られることが三度の飯より好きな人だった。
まもなく、池田恵子氏には新居から10分の位置に建てた名古屋ケアセンター(NCS)東京支店と、主任マネージャーのポストが用意された。
その後、支店長となった池田恵子氏は今も変わらず、電動自転車で職場までの道を走っている。
太田IIDOは「メディアが世の中を悪くしている」が持論。
「失われた10年はメディアがつくった。日本を支えているのは内需であり輸出ではない。だから日本は我が道をゆけばよい」
その痛快な語り口に、僕は少なからず影響を受けている。
IIDOが誕生した2014年春、僕は法科大学院の二回生。川村さんと太田さんに感銘を受けた僕は、司法試験をパスしたが、法曹へは進まず、法務省に進むことを選択した。
僕がたぐり寄せる糸は、また違う映像をコマ落としで映し始めた。
現在四代目のIIDOである棚澤さんは「録臭機」の生みの親としてノーベル科学賞を受賞した経歴を持つ。
科学技術分野のリーダーは人材の枯渇が言われて久しい。棚澤さんは次を頼める人が見あたらないと、いつもこぼしている。
「次世代教育法」が将来、人材確保という意味でその一助になればいいと思う。棚澤さんの目の色が黒いうちは、技術革新分野に僕に「越権」する出番はない。
天下り禁止法
IDO法により、行政への越権立法はブリーフィングで協議したうえ、最終的には総理大臣の署名が必要となる。
任期は残り五か月。初の越権立法協議として「天下り禁止法」を問うことにした。
企業は天下り、渡りの受け入れ禁止。検察庁の内偵で発覚した場合、企業は一律一人あたり一〇億円の罰金。本人はすべての年金資格を二〇年間停止。
天下り先ポストの格は、現役最終ポストの格付けが反映される。官僚はおいしい老後のためにも、出世にこだわる。
「女子アナが見られなくなってしまう」の失言で、独立通信委員会の生みの親となった谷村総務大臣は、思ったことがすぐ口に出るという難点はあるが、ものごとをシンプルにできるプロの大臣だ。
彼との「天下り禁止法」を巡るやりとりは次のようなものだった。
「IDOは現実主義者だと拝察しています。ここは誤解を恐れず、現実的な意見を申し上げます。
天下りは社会的必要悪です。天下りを禁止すれば、出世したい人がいなくなります。そして、官僚のモラルが下がる。中央省庁が機能低下する。すなわち国の機能が低下します。それに、国家公務員を目指す人がいなくなることだって、あり得ます」
なるほど。そして、僕が考える道筋は違います。
僕が考える出発点は、公僕として国民の役に立ちたい、この国をもっとよくしたいという有志が国家公務員になる。
中央省庁は国民のために機能する。従って、出世は争われないし、天下り先も要りません。
「それは理想論でしょう」
ご意見はよくわかりました。
一見、かみ合っていない議論にみえる。
それは、僕が相手のことばを「しかし」「お言葉ですが」のように逆説で受けて、反論しないからだ。
勇気を持って、諫言してくれた相手には、敬意をもって接するという姿勢を貫いている。
最後に決める責任は僕にあり、そのプロセスでいたずらに相手を傷つけるのはよくない。
官僚は優秀だ。
「最も成功した社会主義国」と揶揄される戦後の日本をつくったのは官僚である。
だが「官尊民卑」ということばがあるように、悪者に分類されがちで世間に誤解されている。だが、彼らは公僕としての立場をよくわきまえている。
法律が変わり、世の中が変わることに目ざとい。襟を正すスピードは世界一速い。
たとえ昨日まで税金で飲み食いしていても、一旦、メディアから誰かが叩かれれば、次の日からバス代さえ使わずに「近いから歩きます」と言う。
罪を憎まず自分を憎まずだった人は、自らが罪人側に認定されると、極端に罪を憎む側に転じるものだ。
次回は8月7日に掲載します。
「独裁者」もくじ
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