たすき、再び「走る男」へ戻る
ランドマークタワーを横目に見て、隊列は海を目指す。
この先にあるのはヨットの帆を張った形をした高級ホテル。
森脇健児さんは、ティールームで待っているのだろうか?
最後の横断歩道を渡り、僕ら代走「走る男」はホテルの敷地内へ入っていく。
森脇さんはどこだ?
ホテルのガラス越しに中をのぞきこむ。
向こう側からもこちらを見て笑っている。
あ、いた
と思ったら、別人だった。
さらに舗道を進むと、前方のベンチにたたずむ男性が一人。
そうか、立っているのもきついんだな。
皆が速度をゆるめて、駆け寄った。
知らないおじさんだった。
テレビ局スタッフの先導があるわけでもなく、カメラも回っていないようだ。
代走「走る男」は舗道を左に折れて、右に折れる。
もう海が目の前に迫ってきた。
「あ、いた!」
先頭を走っていた走る男の一人が見つける。
歩道橋から見下ろしたところに、水色のシャツを着た男が一人、こちらに向けて手を振っている。
「けんじ」「けんじ」
誰からとなく、けんじコールが始まる。
ふつー、逆だろ
僕が、誰にも聞こえないよう小声でつっこむ。
ふつーは走っている人に向かって、応援者がコールするものだ。
大勢の男が走っていて、一人の男が応援している。
妙な場面設定である。
けんじコールを連呼しながら、43人の男たちが階段を駆け下りる。
日曜日のみなとみらいの海辺。
暑かった一日をしめくくる、気持ちのいい浜風で涼んでいた人々に、この「走る男」はどう映っているだろうか。
階段の麓まで森脇さんが歩み寄る。
ゴール
たすきが代走「走る男」から、再び「走る男」森脇健児さんの手に戻った。
一人一人が握手に歩み寄る。
一人一人の手を大事に握り返す「走る男」
僕は止め忘れていた、ガーミンフォアアスリートのSTOPボタンを押した。
テレビでおなじみのあの、ぐにゃりとした電子音を立てて、半日の位置と時を刻んだGPSが鼓動を止めた。
10月1日につづく
(次回で、代走「走る男」編は最終回です)
| 固定リンク | 0
「しらべるが走る!」カテゴリの記事
- 我が心の引退レース(2022.03.09)
- 長崎平和マラソン エントリー方法発表!(2020.02.12)
- 大迫傑曰く「タイムは気にする必要はない」(2020.01.21)
- マラソンの最後の1kmは、それまでの41kmとは絶対に距離が違うと思う(2020.01.20)
- 地道に走り、最下位を脱出(2020.01.18)