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2008年9月26日 (金)

最後の言葉

 世の中には仕組みを作るのが好きな人もいれば、その仕組みに寄り添っているのが好きな人もいる。
 僕は仕組みを作るのが好きだ。
 できあがった仕組みは早く人に渡したい。
 できないことは学び、できることは人に教える。
 人々が笑顔になれるような仕組みを作る。
 できあがった仕組みからは、潔く離れる。ずっと、そうしてきた。

 「君は仕組みをつくる男だ。君を選んでよかった」
 僕がいなくなった後、誰かがそう言ってくれれば嬉しい。

 「あれ?今日はいつもの集まりはないんですか?IDOが金曜日に私邸に行かれるのは初めてですよね?」
 うん、今日は家で見たいものがあってね。

 黒塗りの車の後部座席は、やっぱり僕には居心地が悪い。
 金曜の17時台、街に繰り出す人たちで最も賑わう時間帯。
 僕がこの街に帰ってきたあの日より、街は幾分騒がしくなった。
 それでも、KLから帰ってきた時の違和感が消えたわけではない。

 私邸に戻った時は、いつも山田SPが先に室内にはいり、安全を確認してくれる。
 山田さんは、なかなかの論客。歯に衣着せぬ物言いが好きだ。
 移動の車は彼と僕との言い放題タイム。
 とても、大臣やメディアには聞かせられないような法案が飛び交う。
 いつも、楽しかった。

 山田さん、合い鍵は持ってますよね?今日、僕はここで眠ります。
 明日は合い鍵でドアを開けて入ってきてください。交替の時、そう引き継ぎを頼みます。

 「引き継ぎですか?申し送りじゃなくて」
 あぁ、そうか。そうとも言いますね。

 二〇三九年九月一七日(土)八時〇三分。
 池田警護官からの連絡により、私邸に入りました。
 窓辺のテーブルに置かれたパソコンにはワークシートが起動していましたが、文書ファイルは存在しませんでした。
 状況の詳細は公安の報告に譲ります。

 前夜、私が帰宅した後の一七時九分、山田警護官に「私邸に行きたいから、車を出してほしい」と連絡がありました。
 IDOは今年四月以降、週末は私邸で過ごしていました。
 一七時三九分に私邸に入られる際、山田警護官に言ったのが、最後のことばです。
 「今日はここで眠ります。明日はかまわないので、鍵を開けて入ってきてください。そう申し送りを頼みます」

 後任の秘書官との引き継ぎ終了後、私も一ヶ月間、休暇を戴きたいと存じます。

                      IDO室   継波千絵

次回【 最終話 】は9月30日に掲載します。

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