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2008年9月11日 (木)

27年越しのリレー

 学校給食法は改正して、義務教育の給食費をタダにした。
 給食は、第二次大戦後の復興期、海外からの経済援助を受けて成り立っていた。

 子供達にとって、生きること=食べることは根源の権利。
 それを再び、政府が面倒をみるというところへ振り戻す。

 従来法は親に支払義務があり、例外として、経済的に支払が困難な場合に限り、地方自治体が肩代わりすることになっていた。
 この「経済的に支払が困難」のような曖昧な定義は、横着の温床。
 十分な能力がありながら、支払わない不届きな親がいた。

 2039年 9月14日(水)
 これら一連の「一億人維持法」に、高橋総理は持ち帰らず、協議のその場で署名した。
 それまでの総理協議では、総理が持ち帰り一週間後に署名するというのが慣例になっていた。

 高橋総理、子どもの昼飯くらいタダで食べさせましょうよ。
 ただでさえ、子どもを生んでくれた親には、勲章でもあげたいくらいなんでしょ?
 何だったら、給食だけじゃなくて、夕飯のおかずも持ち帰りにしましょうか?

 総理を相手にした僕の軽口に、中村太一は顔を引きつらせている。
 磯田祐子は総理の次のことばを待って息を呑む。

 「おもしろいねそれ。ぜひやろうよ。夕飯作る手間が省けるし。
 世の夫婦達に、子どもを生まなきゃ損だ!と思わせなきゃな。
 子どもがいる家庭は、税金タダっていうのはやらないの?」

 それは、あなたの仕事でしょう。

 今度は総理をあなた・・呼ばわりかよ。
 太一が完全にびびっている。
 祐子はキツネにつままれた顔をしている。

 高橋総理が、言葉を続ける。
 「FEに佐野君を呼んだ時から、僕と目指すところは一緒だったからな。
 でも、なかなかこの法案が出てこないから、正直冷や冷やしたぞ。
 忘れてるんじゃないかってね。
 まぁお前のことだから、最後に決めてくれるのはわかっていたけどな。
 なんだか、僕らは赤い糸で結ばれてるような気がするよ。
 最後の最後に花を持たせてくれてありがとう。
 これで危機一髪セーフってことになりそうだな」

 太一と祐子のまん丸になった目に 光が宿る。
 幸田さんはいつもと変わらず、視線を落としてメモをとっている。

 僕は総理の笑顔の肩越しに、子ども達が笑いあう映像を見る。

 総理は 27年越しのリレーを終えた喜びを隠しきれない。
 椅子から立ち上がると、テーブルを右回りで、太一、祐子、幸田さんの順番で握手を求めてくる。
 そして僕の前に来た。

 「五年間、本当にご苦労だった。よくやってくれた。
 君をFEで初めて見た時、僕にはすぐわかった。
 君ならばきっとやってくれる。
 僕らが何も言わなくてもな。
 ずっと信じていた。
 ありがとう。ゆっくり休んでくれ」



次回は9月16日に掲載します。

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