即席のライダー救護班
三瀬峠から福岡側に少し降りた時、路肩にバイクが横たわっていた。
このコーナーは、思いのほか奥がきつい。
バイクは土手につっこみ、ライダーはその脇で仰向けに倒れている。
意識はある。
「大丈夫ですか?」
大丈夫なわけはないのだが、人は誰でも開口一番そう言ってしまう。
バイクはガソリンが漏れ出すこともなく、ひとまず安全。
ライダーの体に目をやる。
ジーンズとジャケットの上からなので外傷はわからない。
ただ、足がおかしな方向についていた。
見たこともない方向に曲がった足をみて、思わず目を背けた。
そこに後続のライダーが通りがかる。
全員がバイクを止める。
すぐに救護班は5人になった。
当時、携帯電話はない。
麓の喫茶店までいかないと電話がない。
「じゃ、僕 電話してきます」
連絡係を買って出た。
「お願いします」
それぞれが、後続のクルマに迂回を求める者。破片を拾う者。倒れたライダーに話しかける者。
できることを始める。
急ぎたい。
何度もオーバースピードになる。
だが、下りの三瀬は怖い。
ここで僕がやってしまったら、彼の救助が遅れる。
ログハウスのような喫茶店に入り、公衆電話から救急へ連絡。
つづいて、ライダーに連絡先を聞いておいた自宅にも電話を入れる。
「**さんが三瀬峠でバイクで転倒されて怪我をされました。
意識はあります。しっかり話しておられますから大丈夫です」
電話に出たのは初老の女性だった。
お母さんだろう。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ありがとうございます」
とても冷静にお礼を言われた。
「あの、お名前を教えていただけませんか?」
ここで名前を言うことは、後日謝礼の対象になることは想像がついた。
名字だけを言って切り上げようとしたが
「どちらの?」
と言われて、学校名を告げた。
数千人の生徒がいる学校である。
これならば、個人を特定するのは難しいだろう。
やがて、救急車が到着し、ライダーを運んでいった。
最年長らしきライダーが
「皆さん、どこかでお茶でも飲みましょうか」
と提案して、僕らは賛同した。
緊急事態に対応した仲間として、三瀬に集ったライダーとして、すぐに解散するのは名残惜しいということもあったのだが、僕らには興奮を冷まして、落ち着く時間が必要だった。
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