昭和48年 阪神0-9巨人
子どもの頃のアルバムを見ると、最初にかぶった野球帽はTH。
阪神タイガースだった。
シンプルな縦縞は、子供心にとてもかっこよかった。
TとHを組み合わせた、硬派なロゴマークも心を捕らえて離さなかった。
授業中、国語のノートの隅っこに TとHのマークを書いて遊んだ。
YとGのチームは、変な兄ちゃんのマスコットが気持ち悪くて、好きになれなかった。
阪神タイガースは、大阪のシンボルのように言われている、兵庫県の野球チーム。
1973年
巨人V9の年、阪神は一度は優勝に大手をかけた。
巨人に1ゲーム差をつけて、残りは2試合。
ここで勝てば優勝というナゴヤ球場での中日戦。
2対4で敗れた。
デーゲームで行われたこの試合の途中、東京から大阪に移動する巨人選手が、新幹線で外野の後ろを通った。
テレビカメラが望遠レンズで捕らえた0系新幹線の窓には、球場を食い入るようにのぞき込むオトナ達の顔が並んでいた。
「あぁ巨人の選手たちですかねぇ。こっちを見てましたね」
アナウンサーが実況した。
シーズン最終戦
0.5ゲーム差の2位 巨人を甲子園に迎えた。
ここまでの対戦成績は、巨人の12勝11敗2分。
巨人の先発はエース高橋一三、ここまで22勝13敗。
阪神も、エース上田、ここまで22勝13敗。
いったい、どこまで五分なんだ?
というくらい、両者は拮抗している。
巨人のスターティングメンバー
[左]萩原
[遊]黒江
[中]柴田
[一]王
[右]柳田
[捕]森
[三]上田
[二]土井
[投]高橋一
長嶋は怪我のため、戦列を離れており、この後の日本シリーズにも出場しなかった。
V9と言えば、柴田、高田の1,2番コンビという印象が強いが、高田はこの試合に出場していない。
萩原は1打席立った後、末次に交代した。
巨人の選手交代は、その一人だけである。
阪神のスターティングメンバー
[遊]藤田平
[二]野田
[一]遠井
[捕]田淵
[右]カークランド
[中]池田
[三]後藤
[左]望月
[投]上田
両軍の四番、王は4打数1安打1打点。田淵は3打数0安打0打点1四球。
阪神の5番手には、フラミンゴ投法で子どもに人気が高かった谷村が登板し、7回に1点を失っている。
試合は初回に2点を挙げた巨人が、5回まで
[2][2][1][1][2]と5イニング連続得点で 8-0 とリード。
投げては高橋一三が、4安打7奪三振2四死球で完封、自ら三塁打も打って見せた。
試合時間2時間18分 9対0
9回裏、最後の打者カークランドのバットが空を切ると、48,000人観衆のうち、阪神ファンは巨人の優勝を祝うために、グラウンドになだれ込んだ。
巨人選手がベンチに戻ると、甲子園の土を投げてプレゼントしたり、選手を叩いて祝福した。
結局、この手荒い祝福のために、巨人選手は川上監督を胴上げすることができず、プロ野球史上初、そして恐らく最後の「胴上げができなかった優勝チーム」となった。
時は流れて2000年代。
「巨人だけではダメ。大阪が強くならんと、野球界が盛り上がらん」
と言って中日から移籍した星野仙一が、チームの舵取りを始めてからというもの、阪神は強くなる。
もう誰もダメトラとは呼ばせない。
阪神の応援は、いつも大音響。
その大音響は、相手チームへの共感を倍加させた。
東京ドームに阪神が来ると、どちらのホームかわからない。
そのため、レフトスタンドにも巨人応援席を設けて、ビジター応援団の比率を下げたほどだった。
2005年の球団創立70周年も優勝で飾った。
あまりに強いので、星野仙一が今度は巨人の監督に就任すると報道されたほどだった。
巨人は12球団の中で唯一、生え抜き選手以外に監督を任せたことがない。
その禁を破ってまで星野の力を借りたい。
2002年オフに松井を失った巨人は、わずか3年で そこまで弱っていた。
だが、その年の10月、村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主となり、阪神タイガースの上場を提案したあたりから、雲行きが怪しくなった。
その年、ロッテとの日本シリーズは4連敗。1つも勝てなかった。
2008年には、優勝祝賀の増刊号が出たほど独走したが、13.5ゲーム差を巨人に逆転されて2位。
岡田監督が責任を取って、5シーズンで退団した。
2009年は、真弓監督の1年め。
6月29日現在で、セリーグ5位。
首位巨人とは 13.5ゲーム差。
昨シーズン、巨人の自力優勝の可能性が消えたのは7月9日のこと。
その時、首位阪神とは13ゲーム差。
やられたら、やり返す。
まだまだ、時間は十分に残っている。
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