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2009年7月 3日 (金)

1996年 携帯電話 5000円

 ある日、僕は携帯電話のセールスマンだった。
 と言っても、本職ではない。

 取引店の新規開拓で名古屋市を回っていた時のことだ。

 その会社に行くのは、楽しみだった。
 いつもならば、一回りも、二回りも年上の怖そうな顔をした社長さんを相手に、全然びびってませんよという顔をして営業をしなければならなかったが、タケダ社長は僕より1つ年下だった。
 会社に商談に行くと言うよりは、遊びに行くという感覚で、当時、集めていたナイキの靴やG-SHOCKの話で盛り上がった。
 自宅におじゃまして、タケダ社長がハワイで買ってきたというナイキのフォームポジットを見せてもらったこともある。
 宇宙人の靴みたいで、一目惚れした。
 3ヶ月後、日本で発売された日に、榮のビースクエアで買った。

 本業は役務商品の販売なのだが、その社長はあらゆるものにアンテナを張り巡らせていた。

 ある日、いつものように遊びに行くと、タケダさんがチラシを作っていた。

「デジタルムーバ 5,000円」

 僕は1年前に携帯電話を買っていた。
 神戸で震災があり、携帯電話の購入に後ろ盾ができてすぐ。
 ドコモのお店で、総額は96,000円だった。

 その会社が売っている役務商品がおよそ 20万円。
 恐らく、その会員特典として廉価販売するのだろう。

「違いますよ、motoさん。ほんとに5000円で売るんですよ。
 ただ、半年間は解約できませんけどね」

 当時、携帯を解約するなんて発想すらない。
 10万円の大枚をはたいて買ったものを、解約してどうする。
 半年で解約する人なんて、いるわけないじゃないか!

 そういう時代だった。

 僕はそのチラシを1枚コピーしてもらい、会社に持ち帰った。
 何台くらい売ってもらえますか?と、タケダ社長に販売可能な枠を尋ねると
「何台でもいいですよ。5台売ってくれたら、1台motoさんにもあげますよ」

 そんなものは要らない。既に持っているし・・
 それよりも、同僚が びっくらこく顔が見たかった。

 僕の電話は飛ぶように売れた。

 「ほんとに、いいの?ほんとに 5,000円?」
 「絶対、裏があるに決まっている」
 「お前がバックマージンをもらうんだろ?」

 ナゴヤの人は疑り深い。
 そんなナゴヤ人を尻目に、転勤族の男連中が、俺も俺もと申し込んでくる。

9605




 いつ届くの?
 届いたら、motoにも、一杯おごらんといかんな。

 1996年4月、携帯電話を持っているのは、個人事業主ばかりで、一般のサラリーマンにはまだまだ高嶺の花だった頃。
 これで、自分もイカしたサラリーマンの仲間入り。
 誰もが、遠足を待つ少年のような目をして、納品を待った。

 1年後には、NECが折りたたみ式の携帯電話を発売する。今ではそれが標準だが、初めは誰も見向きもしなかった。
 その当時の携帯はすべて、このトランシーバースタイル。
 一斉に届いた翌日、誰もが、空いた手で受話器を作り、声を電話機に押し込んでいた。

 そんなことしなくても、声入るんですけど・・

 あれから13年。
 当時、僕から買って携帯デビューした15人は、そんな出来事を忘れているだろう。
 先日10年ぶりに東京で会ったタケダ社長は、昔とは全然違う商売をしていた。
 お揃いだった僕らのフォームポジットは、7年程度でダメになるナイキの靴には珍しく、今も現役を続けている。

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