中1で筋トレをした結果
女子たちは「ひ弱な坊や」と僕を馬鹿にした。
そこで僕は「冒険王」に広告が出ていた日焼けマシーンではなく、ブルワーカーを買うことにした。
お盆に下関の親戚に行った時、それまではひ弱だった兄弟が揃って、精悍な体つきに変わっていたからだ。
なぜか、母も話しに乗ってきた。
ママさんテニス大会で全国優勝するために、上腕を鍛えようと思ったのだろうか。
五島に帰ると、真新しいブルワーカーが届いていた。
それまで、雑誌の広告で買ったものといえば、
ミルマスカラスのミニマスク、ガイコツバンク、オバケ面・・(個々の説明は割愛)
いずれも期待はずれに終わっていた。
だが、こいつだけは違った。
広背筋(脇の下の筋肉)を鍛えて、ポーズを決めるとボディビルダーのような逆三角形になる。
ただ、当てもなく筋肉のついた造形美に憧れる時期がある。
それが、たまたま中学1年の夏だった。
そして、背が止まった。
結論と実体験から言う。
背が伸びているうちは、どうしても背を停めて低い目線で世の中を見たい人でない限り、筋トレをしてはいけない。
そう言うと誰もが、そんなこと常識だよという顔をするが、誰一人として事前に教えてはくれない。
ダイエットに精を出していた「みっちょか」時代は過ぎ、中学に上がると、体が引き締まってきた。
それと同時に、背が伸び悩む連中は僕に対してちょっかいを出さなくなった。
「かっこつく、おとこんきーた」事件の後、屋上に僕を呼び出してリンチにした二人連れは、僕との身長差が10cmになる頃には、ネコのように喉をごろごろ鳴らして
「motoく~ん」とすり寄ってきた。
僕はもういじめに遭うこともないと安堵すると同時に、世の中はちょっとしたことで状況が変わるのだという発見をして嬉しかった。
僕が住んでいた頃、その町では「原」という名字が一番多かった。
なぜ、断言できるかと言うと、町役場に1週間通い、全世帯の名字を調べたのである。
オトナになってから、住民票の閲覧にはお金がかかることを知り、その後は、個人情報保護という小難しい時代になった。
それが「社会科の発表で、どの名字が一番多いかを調べたいんです。先生の許可も得てきました」とやってきた一見の小学生に台帳を見せてくれたのである。
なんと、すてきな町だったのだろう。
公務員はこうでなくてはいけない。
調査仲間の名字もハラ君。
なにせ、クラスはハラだらけ。
学校帰りに役場に上がり込み、事務机を占領する。
世帯数などというコトバは知らなかったが、人口1万人弱の町なので 3,000弱の世帯はあったのだろう。
台帳を見ながら「正」の字を書いていく。
「よ~がんばったなぁ」
「最後までつづくとはおもわんかったバイ」
調査最終日には、名残惜しんだ役場の人が くす玉を割って
ファンタオレンジで慰労してくれた。
僕はやり遂げた達成感と、オトナの皆さんの暖かさに、思わず目が潤んだが、男は人前で泣くものではないと頑なに信じていたので、こらえた。
明日は発表の日。
できあがったランキング表の1番上は「原 55軒」
模造紙に書き込んだ成果物をみて、僕は物足りなさを感じていた。
7/31につづく
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