島流しのよそ者が、五島で受け入れられた瞬間
完全調査!魚目町名字ランキング
小学生の社会科の時間の発表としては、それだけでも十分なものに思われた。
僕とハラ君が毎日役場に通っていることは、先生にも言ってあるので、既にネタはばれている。
僕らの発表の順番が来る。
黒板に模造紙を張り出す。
「それでは、魚目町の名字ランキングを発表します」
(一同)
お~っ
でも、それだけだろう。
驚きはあるけれど、感動まではいかない。
僕はあと一ひねりして、皆の感動する顔が見たかった。
発表は明日である。
もう日はとっくに暮れている。
それでも僕にはまだ秘策があった。
僕は、父の許可を得たうえで、高校の社会科教諭 タハラ先生の自宅に向かって、自転車を出した。
長崎県の教諭は新任の頃、必ず一度は離島勤務を経験しなければならない。
教頭以上の役職に就くときは、さらにもう一度。
合わせて二度の離島勤務をすることになる。
女性教諭の中には離島に行くのをいやがり、となりの佐賀県の教諭になる人もいる。
彼は、新卒で上五島高校にやってきた。
タハラ先生は時々、僕のキャッチボールの相手をしてくれた。
納屋のような一軒家に住んでいて、ふらっと訪ねると、気さくに話し相手にもなってくれた。
木訥な性格に温厚な人柄で、話もおもしろい。
現在は出世して、長崎県有数の進学校で校長をしている。
長崎県教委は人を見る目があるようだ。
模造紙を広げて、僕は切り出す。
名字ランキングを調べたんですけど、なにかこう今ひとつもの足りなくて・・
すると、タハラ先生はいつにも増して、優しい顔つきになり、
君はすごいな。さすが**先生の子供だと言って 抱きしめて 褒めてくれた。 君は将来、大物になるよと言われ、いや僕もそう思うんですと心の中で同意したのだが、彼に人を見る目はなかったようだ。
彼は特に姓名の専門家というわけではないが、地理を専攻していることもあり、初任地についてもそこそこの知識を持っていた。
ハラという姓が多いのは、きっとかつての藤原という大名から、ひと文字をいただくという形で名字を付けたんだと思う。
明治に入って名字を名乗ることが許された時、人々はその土地の君主・・もちろん尊敬している君主だけどね。その名字からひと文字をもらうということがよくあったんだ。
彼は名字だけでなく、地名についても話してくれた。
新魚目町は似首、丸尾、榎津、浦桑の4つの郷に分かれている。
なかでも、似首(にたくび)は珍しい地名だ。
僕は引っ越して来た時から、この地名が苦手だった。
なんだか得体の知れない気味悪さを感じたのである。
4つの郷はいずれも海に面しているが、似首は特に海に向かう急な傾斜のうえに町があり、町はずれにはとなり町を隔てる切り立った崖があった。
僕の予感は当たっていた。
似首だけどね、昔似首の崖の上には刑務所があったと言われているんだ。そこから処刑された・・
今も住んでいる人がいる町なので、ここでやめておきます。
そこは遠慮のない小学生。
そんな露骨な地名の由来も含めて、僕は熱弁する。
僕の発表に聞き入っていた五島の友達は、話し終えると一斉に スタン 拍手を送ってくれた。
一人だけぽっちゃりしていて、夏はひとり色白。
佐世保に帰ると言って、ペーロンにも出ない。
ソフトボールでは張り切りすぎて浮き上がる。
そして、いずれは父の「島流し」(長崎の教諭たちは離島勤務をこう揶揄する)が終われば、本土へ帰っていく友達。
そんな「よそ者」の僕が4年間で、最も皆から受け入れられた瞬間だった。
次回、この話の最終回
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