自転車運転免許試験会場にて
「うんが昨日、自転車に乗っ取るとば、見たとぞ」
"うん"は五島弁で「おまえ」である。
どうやら、自転車で公道を走ったことが、いけなかったらしい。
その叱責の言葉は容赦が無く、黙っていたら軍法会議にでもかけられそうな勢いだ。
魚目小学校の規則では、公道を自転車で走るには、免許証が必要なのである。
転校してきたばかりなんだから、もうちょっと優しく言ってくれてもよさそうなものだが、なにせ、田舎だから事件がない。
彼らだって生活に変化が欲しい。
そこに、やってきた転校生が、校則破りの無免許運転とくれば、彼らが興奮して気色ばむのもわからないでもなかった。
しばらく、自転車に乗れない日々を過ごした後、自転車免許試験の日がやってきた。
放課後に受験者が、各々の自転車を持って校庭に集まる。
今になって思えば、免許を持っていない校友のほとんどが、自転車持参だったのが変だ。
試験管は学校の先生たち。お巡りさんが来るわけでもない。
1年生から6年生までが、まったく同じ試験を受ける。
ほとんどの生徒は、低学年の時に免許を取得済みで、同級の5年生は数えるほどだった。
試験は実技4種目。筆記試験はない。
最初の種目は、一本橋。
一本橋といっても、石灰で 50cmほどの幅に引かれた2本の線。距離はおよそ10m。
それをはみ出さないように、走り抜ける。
自転車運転歴3年の僕に、これは朝飯前。
試験管の採点は、1種目20点満点。
手渡された採点表には「20」の数字が書き込まれた。
続いてはクランク。
これも問題なく、20点を獲得。
3種目めは、8の字スラローム。
8の字をなぞるように、1周するだけのことで、これもわけなく終わろうとしていたその時だ。
4年生の女の子 二人がコースを横切った。
彼女たちは、試験なんてお構いなし。放課後の校庭を駆けて遊んでいたのだった。
慌てて急ブレーキをかけて停車。
女の子は、あっと一瞬ひるんだものの、すぐに黙って、駆けていった。
ここまでパーフェクトだったのに・・
人生はなにが起こるかわからない。それも仕方がないことだと、最後まで試技を終えて、採点表を受け取る。
すると、そこに記載された点数は「20」
「とっさの判断、止まり方がよかった」と、試験管に褒められた。
止まり方がよかった・・って、ふつー止まるだろ
と心の中でツッコンだが、いやぁ感激です、神様は見ているんですねという純真な笑顔をつくった。
最後の種目、横断歩道のある交差点の試技も難なく20点。
なにせ、信号機がない町なので、海に落ちさえしなければいいのである。
翌朝、試験結果が職員室の前の廊下に貼り出された。
6年生の女の子が一番右に書いてあり、僕はそのとなり。
80点満点をマークしたのは、二人だった。
自転車免許証は厚紙に輪転機で刷ったもの。それを、プラスチックのパスケースに入れてくれた。
それを、こんなふうにして、webで発信できる時代がくるとは思わなかった。
生まれて初めての免許証を掲げてにっこりのmoto少年
そんな写真の1枚でも撮っておけばよかった。
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