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2009年8月 4日 (火)

人生最良の日

その日、男は人生最良の日を迎えていた。

目覚まし時計が鳴り、一度はスヌーズボタンで逃げて、二度めに目覚めた。
暑い夏は、知らず知らずに男の体力を奪う。
昨日の疲れは色濃く残っている。

駅に向かう道のりには、1つだけ信号付き横断歩道がある。
その日によって、家を出る時間はまちまちなので、ある時は赤、ある時は青。
赤だからといって、回り道をすれば、結局同じだけ時間がかかるので、信号が青に変わるのを待つ。
その日の信号は赤。
信号が変わり、横断歩道を渡り始めると、猛烈なスピードでおばさんの自転車が突っ込んできて、男がよけた。
「ん、もぅ!」
おばさんは誰かに怒っていた。
しかたないな
ちょっと小首をかしげて、男は歩をゆるめず、駅へ向かった。

仕事場でいつもの席に着き、いつもと同じ流れ作業。
誰かに頼られているとか、期待されているといった
感情で仕事をしていたのは、遠い昔。
今は自分のなかに穏やかな時間が流れている。

トイレに行こうとすると、ガラスドアの向こうから名前を知らない社員がやってくるのが見えた。
彼は男よりも少し早くドアにたどりつき、ここはロンドンでもないのに、ドアを開けて男を待っていてくれた。
ありがとう
いえ
2人の男は、これ以外の会話をしたことがない。

昼休みはちょっと遠出して、公園のそばにあるラーメン屋へ。
テレビで紹介されたこの店で、一度食べてみたかった。
12時ちょうどに出てきたのだが、すでに30人ほどが並んでいる。
昼休みのベルを待たずに出てきたのか、10人ほど前には、同僚の姿が見える。
「今日は麺が終わりました」
男の5人ほど前で、予定数が終了した。

しかたない。コンビニでおにぎりを買い、公園で食べよう。
980円の高額ラーメンを食べなくて済んだお金で、300円分スクラッチくじを買った。
全部はずれた。

一日の仕事が終わり、まっすぐ家に帰る。
コンビニに寄って、新製品をチェックする。
国民の大半が、ちょっとした買い物ができるこずかいをいつも財布に入れている。
そんな国は世界中で数えるほどしかない。
並んだレジの係は胸に「研修生」と書いてあり、会計に手間取ったが、男はアルカイックな笑みをたたえて、からあげクンを眺めていた。

服を着替え、夕飯をとり、風呂掃除をして風呂に浸かる。
リンゴジュースを飲みながら、録画しておいた映画を観る。
一日が終わった。

6時間の睡眠から目覚めると日付は変わっている。
暑い夏は、知らず知らずに男の体力を奪う。
昨日の疲れは色濃く残っている。

その日、男は人生最良の日を迎えていた。

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