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2009年8月 1日 (土)

冷たい部屋の世界地図

 新魚目町は長崎県の沖に浮かぶ五島列島の一つ、中通島(なかどおりじま)通称「上五島」にある。

 五島列島は長崎県に属する離島。
 中通島・有福島・奈留島・久賀島・福江島という五つの島と 150ほどの小さな島々の総称である。
 一番大きいのは、下五島と呼ばれている福江島(2004年に五島市となった)
 中通島・有福島・奈留島・久賀島は南松浦郡、中通島の北にある小値賀島・宇久島は北松浦郡に属している。


 1956年に、魚目村と北魚目村が合併して誕生。
 2004年には、上五島町、有川町、若松町、奈良尾町と市町村合併し、新上五島町となった。
 ゆえにもう、新魚目町は存在しない。
 浦桑・榎津・丸尾・似首には「郷」という呼称がつき、新上五島町浦桑郷というように表記される
 ・・・はずなのだが

 月刊誌「旅」の2008年10月号は
 「五島列島は、まるで異国のようなニッポンです。」
という特集記事を組んだ。

 懐かしの町「魚目」に、今はどんな観光資源があるのだろう?
 目を皿のようにしてページを追っていた。
 ところが、ページは進めども「魚目」は出てこない。
 そして特集を締めくくる「五島列島MAP」のページ。
 隣り町の「青方地区」や「有川地区」の表記はあるのだが、魚目の字はどこにもない。
 あるのは「丸尾教会」だけ。
 浦桑も、榎津、似首は 地名すら載っていない。


 無理矢理つくったような観光資源を誇る町は多い。
 ガイドブックをめくれば、誰が行くのかと思うような、観光資源が少なくない。
 だが、魚目にはそれさえもない。
 ガイドブックに、その名すら出てこない町。
 そんな町は日本中に五万とあるのだろう。
 いや、6万かも知れない

 ガイドブックに載らなくても、今の僕らにはGoogleマップがある。
 Googleマップに新上五島町と打てば、現在の五島の地図が出る。
 ストリートビューの撮影車が乗り入れるのはまだ先のようだが、地図だけでも十分に今の町がわかる。


 父の本土復帰の辞令が出て、僕ら家族は客船「鯨波丸」で五島を後にした。
 船の別れは特別な感情になるものだが、テープを投げに来たクラスメートはいなかった。
 たまたま居合わせた、となりのクラスの女子がめざとく僕をみつけて
 「moto~っ」
 と手を振ってくれた。僕は面目を保った気がして嬉しくなった。

 切符は二等船室だが、僕はいつも 3時間の船旅を甲板で過ごす。
 潮風に当たっていれば、船酔いしないからだ。
 見渡す限りの水平線
 カモメが飛び、時折イルカやアゴが鯨波丸に競争を挑む。
 脳内には陽水の「冷たい部屋の世界地図

 ♪やさしさが壊れた~
  海の色はたとえようもなくて悲しい

 海の男になりきっているうちに、甲板の上で大の字になって寝てしまい、目覚めると、人々が僕をまたいで通行していた。


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