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2010年10月20日 (水)

寅さんが行く

Torazo

本日、祝い事のため休業します。
とらや一同

年中無休のとらやに、この日は一枚の紙が貼られている。

江戸川のほとりにある、こぢんまりとしたホテル。
みつおといずみが結婚式を挙げている。

Edogawa

披露宴会場の隅っこにあつらえた親族席の円卓
スピーチも謡いも辞して、遠くから祝福を受ける2人を眺める寅。
さくらの酌で、静かに熱燗をたしなむ。
寅の席だけ、伊勢エビのおつくりの隣に、するめのあぶったのが皿に乗っている。

ひろしは、来賓のテーブルをまわり、版元の社員にお酌をしている。

そんな寅の姿を視界のすみにとらえたいずみ。
思い立って、寅の席まで足を運ぶ。
慌てて、ホテルマンが追っかけてドレスの裾をひろう。

「おじちゃま、ありがとう おひとつ、どうぞ」

お、いずみちゃんお酌してくれるのか、久しぶりだな。
喜ぶ寅
「よかったわね、お兄ちゃん」
さくらが そっと声をかける

かつて、そんな光景にやきもちをやいたみつお。
テーブルからすこし離れた場所で切ない表情。
もうカマキリのようにやせ細っていた面影はない。恰幅がよくなって、白い燕尾服が様になっている。

寅がいずみに声を掛ける。
幸せになんな。

おじちゃま・・ 絶句して 涙ぐむ、いずみ。

おい、みつお!
そんなとこにつっ立ってないで、こっちに来い
にこりと笑い、ゆっくりと近づくみつお。歩く度、体が傾く姿は変わらない。

いいかみつお。もしも、いずみちゃんを泣かすようなことがあったら・・

このオレがといいかけた言葉を飲み込み、じっとみつおを見つめる寅。
深くうなずくみつお。
大人になったみつお。
頼りなさは消え、精悍な顔つきになった。
もうおまえに教えることは何もないぜ、寅の満足そうな笑みが物語っている。

着物を着ると背筋がぴんと通るおばちゃん。ただ、いかんせん、涙もろい。さっきから、ハンカチで顔を隠しておんおんと泣いている。

そんなおばちゃんに、さくらとひろしももらい泣き。
おばちゃんの隣の席には
おいちゃんの遺影が飾られている。
その隣には子どもを連れたあけみ、その隣の席にタコ社長の遺影。今日も口を開けて笑っている。

寅さん、うらやましいだろっ
どこからかタコ社長が、冷やかす声がきこえた。

固唾を呑んで見守っていた来賓たち
満場の拍手が、寅と若い2人を包む。
数少ない言葉のやりとりで全てを理した人々。
いつまでも、手を打つのをやめることはない。

Sando

柴又の日が暮れて、カラスがカーと鳴く。
帝釈天の鐘が一つ。
披露宴がはねてとらやに戻った一行。

長い時間をかけて、さくらに袴を片付けてもらった寅。
お気に入りのはんてんを羽織り、さっきから仏壇に向かってじっとしている。

すまねぇ、おいちゃん。
おいちゃんの目の黒いうちに、俺が安心させてやらなきゃいけなかった。
今日はみつおの結婚式。
おいちゃん、見ていたかい。
苦労人のみつおだけに、盛大とはいかねぇが、皆、あったかい人たちばかりさ。
俺は誇らしいよ。
俺がこんなやくざ稼業から足を洗えなかった分、満男がみんなを背負ってくれる。
それで、勘弁してくんな。

お兄ちゃん、風邪ひくわよ
こっち、いらっしゃい。

じっと見守っていたさくら。
涙を吹いて、兄を茶の間に呼んだ。

つづく

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