「共有フォルダーに格納しました」と言う格納男
「共有フォルダに格納しました」
今日も、こんなメールが一斉配信で届く。
「来週の会議について、事前にお読み頂きたい資料を共有フォルダーに格納しました」
差出人はいつものアイツだ。
「格納男」
格納男はファイルの共有をするネットワーク上のフォルダーに、自分がつくった資料を置いたことを「格納しました」という。
「マニュアルを共有フォルダーに置きました」
「マニュアルを共有フォルダーに入れておきました」
とは言わず「格納しました」という。
格納の意味は、物を一定の場所に納め入れること。
用例としては「航空機を格納する」「車輪を格納する」など物理的な物を、本来それが納まる場所に仕舞うことを言う。
コンピューターのファイルは物ではないので、格納という言葉はそぐわない。
ではなぜ、格納男は「格納しました」と言うのか。
それは次の2つの理由が考えられる。
1,自分は文書の作成・修正という責任を果たしているという事実の強調。
2,材料は与えたのだから、その理解・習熟は各自の努力に委ねられているという牽制。
格納男は「格納しました」と言ってボールを手放す。
その後、そこに書いてあることを知らなかったとは言わせない。
知らずに不利益があったとしても、それは自己責任である。
そう彼は言っているのだ。
文書ファイルを共有フォルダーで共有することは、悪いことではない。
いいことだから、多くの職場で使われている。
2000年代にはいり、企業は「パソコン1人1台」時代を迎えた。
そして、2000年代のうちに共有フォルダーが整備された。
ただ、この共有フォルダーは素人には厄介だ。
まず、動作が安定しない。
ファイルが開ける人と開かない人がいたりする。
メールに貼り付けてある番地(path)をクリックしても、そのファイルまでたどりつけない。
(たどりつけるのはせいぜい、そのファイルが置かれているフォルダー階層まで)
ウェブページと共有フォルダーを比べると、情報の受信者にとっては圧倒的にウェブページが便利。
一方、情報の発信者にとっては、圧倒的に共有フォルダーが手軽。
それは、整然としたレイアウト、他の資料との統一感など何も考えなくていいからだ。
わかりやすさなんて二の次。
自分だけがわかっています。
え、間違ってる?
すみません、自分、資料作りが仕事じゃないんで。
こういう、文書を軽視したいい加減さが放置されているのが、共有フォルダー。
「格納男」は今日も格納する。
でも、そのわかりづらい資料、まちがいだらけの手順書が問題にはなることはない。
なぜならば、誰も見ていないから。
企業が「パソコン1人1台」時代を迎えた当初、各自がつくった資料は各自のパソコン(ローカル)に "格納" されていて、必要と思われる人にだけ電子メールで送られていた。
互いにメールで連絡をとりあう人の間だけでの情報共有だ。
「こんな書類が必要だな」
と思い立って、3時間かけて作った資料は、3m離れた席の人が3ヶ月前に既に作っていた・・・
そんな状況を「情報の陸の孤島」と呼んだ。
お互いが持っている情報を、もっとうまく共有して活かすことはできないものか? 誰もがそう思っていた。
あれから10年。
共有フォルダーや文書管理サーバーが普及した。
それで「陸の孤島」は解消しただろうか。
いや、してはいない。
「格納」スペースは、上意下達の道具として使われているだけ。
本当に共有が求められるような情報は、まだまだ個人の脳に眠っている。
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