声を失った人たち
駅の改札
前の人との距離が詰まる
後ろから靴のかかとを踏まれる
振り返って確認するわけではないが、
「すみません」
という小声すら聞こえない。
大雨の日
ロングシートの電車
前に立った人の荷物がひざに当たった。
次に傘の先が当たった。
彼女はスマホとにらめっこ。
また傘の先が当たった。
当たる度に少し荷物を引いているから、気づいてはいる。
でも、会釈すらない。
路線バスの停留所に着く
窓際に座っている人がもぞもぞしている。
ふと見るとこちらをにらみつけている。
あ、降りるのか
なぜ一言
「おります」
「すみません(通してください)」
と言わないのだろうか。
台風がそれた日の神宮球場に、澤村が初めて登板している。
2011年はすっかりおなじみの1点差ゲームの中盤。
突然、空から液体が降ってきてあたりの人をびしょ濡れにした。
あぁっ
嬌声がした方を振り返ると、指定席B2階12段48番49番あたり。二人の男が笑って頭を低くして隠れようとするところだ。
焼酎をぶちまけたらしい。
他の人たちは、面倒に巻き込まれたくないのか振り向きもしない。
タオルで髪を拭きながら、もう一度振り返り二人の男をみた。
知らんぷりして焼酎を飲み、視線はグラウンドを直視している。
しばらく様子を見ていると、少し離れて座っていた仲間の男性がこちらに気づいて「すみません」と謝った。
スミマセン
というかんたんな言葉だっていい。
詫びる気持ちがその表情から読み取れたらいい。
ストレスと強圧に満ちあふれた社会では、些細なことをいちいち怒ってはいられないのだ。
ひとこと謝ればいいことなのに言葉を失った人たち。
落ち度を詫びるという人間には育たなかった。
礼儀を放棄してしまっている。
なにかに怯えているのかも知れない。
きっと違う次元に進んでいくことになるのだろう。
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