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2011年9月 3日 (土)

声を失った人たち

駅の改札
前の人との距離が詰まる
後ろから靴のかかとを踏まれる
振り返って確認するわけではないが、
「すみません」
という小声すら聞こえない。

大雨の日
ロングシートの電車
前に立った人の荷物がひざに当たった。
次に傘の先が当たった。
彼女はスマホとにらめっこ。
また傘の先が当たった。
当たる度に少し荷物を引いているから、気づいてはいる。
でも、会釈すらない。

路線バスの停留所に着く
窓際に座っている人がもぞもぞしている。
ふと見るとこちらをにらみつけている。
あ、降りるのか
なぜ一言
「おります」
「すみません(通してください)」
と言わないのだろうか。

台風がそれた日の神宮球場に、澤村が初めて登板している。
2011年はすっかりおなじみの1点差ゲームの中盤。
突然、空から液体が降ってきてあたりの人をびしょ濡れにした。
あぁっ
嬌声がした方を振り返ると、指定席B2階12段48番49番あたり。二人の男が笑って頭を低くして隠れようとするところだ。
焼酎をぶちまけたらしい。
他の人たちは、面倒に巻き込まれたくないのか振り向きもしない。
タオルで髪を拭きながら、もう一度振り返り二人の男をみた。
知らんぷりして焼酎を飲み、視線はグラウンドを直視している。
しばらく様子を見ていると、少し離れて座っていた仲間の男性がこちらに気づいて「すみません」と謝った。

スミマセン
というかんたんな言葉だっていい。
詫びる気持ちがその表情から読み取れたらいい。
ストレスと強圧に満ちあふれた社会では、些細なことをいちいち怒ってはいられないのだ。

ひとこと謝ればいいことなのに言葉を失った人たち。
落ち度を詫びるという人間には育たなかった。
礼儀を放棄してしまっている。
なにかに怯えているのかも知れない。

きっと違う次元に進んでいくことになるのだろう。

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