川内優輝をロンドン五輪代表へ
東京マラソン2012を控えた記者会見でのことだ。
皇帝と呼ばれているエチオピアのランナー、ゲブレシラシエは川内優輝の印象を聞かれて「自信にあふれているね」と語った。
とうの川内優輝は確かに自信にあふれていて「2時間7分台をめざすと明言します」と語っていた。
この2人のコメントを読んだ時、少し危うい予感がしたが、杞憂に終わってくれるだろうと思っていた。
結果としては、半年間備えてきたという成果は出せず、いつもの川内優輝だった。
タイム的にはおよそこの程度であるし、一旦遅れてからの終盤の盛り返しもいつも通り。前をいく高速ランナーがいなければ、再び驚異的な粘りがテレビに映ったはずだ。
「マラソンはリズムが命」
2位にはいった藤原新がレース後に語ったことば。
市民ランナーにも共通する至極の名言である。
川内優輝は5km、10kmの給水に失敗した。
正確にいえばオフィシャルのアミノバリューはとれているので、スペシャルドリンクが取れなかった。
それは、職場の同僚が調合してくれたというスペシャルドリンク入りのボトルである。
遠足に出かけた日、楽しみにしていた弁当の蓋を開けた途端に、おかずをひっくり返してしまった・・
そんないたたまれない気持ちになったのではないか。
川内優輝は給水失敗について「動揺してしまった。精神的に未熟なのかも知れない」と語った。
テーブルの上に目当てのボトルが見つからない。目をこらしてよく探す。
ただでさえ給水はリズムを崩す要因となる。
それが二度にわたって見つからないとなると、大いにリズムが崩れてしまったはずだ。
精神的に未熟だったのではなく、経験と工夫が足りなかっただけのことだ。
そして、この日の談話で注目すべきなのは次のくだりである。
「僕の五輪の挑戦が終わってしまった。情けない」
なんと正直で率直。そして私心がない言葉だろう。
川内優輝は代表選考レースの福岡国際で日本人1位となっている。
あとの選考レースに出場しなくても代表に入る可能性が高かった。
それでもさらなる高みに挑んで失敗。それを素直に認める潔さ。
私心ある人間であれば「終盤粘ることができたのはよかったと思う」「この経験を活かして、さらに成長したい」などといった言葉が出てくるところ。
僕は既に有資格者だから、そこのところ頼みますよ・・という見苦しい姿が、川内優輝には微塵もない。
日本の男子マラソン選手は、藤原新を除けばドングリの背比べ。
その中で、福岡国際の実績、潜在能力の高さ、レース終盤の粘り強さ、挑戦意欲、川内優輝が傑出しているポイントは余りある。
なにより、市民ランナーの星がここで潰えてしまうのはさみしい。
マラソンはこれから大いなる文化に育たなければならない。
超高齢化社会を迎える日本にとって、マラソンは健康保険の負担額を抑える切り札である。
川内優輝もライフワークに掲げている「全国旅マラソン」による、内需拡大も大きい。
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