大所で勝負するタイプとは?
ある日、僕は勤勉なセールスマンだった。
朝早くから夜遅くまで、一軒でも多くの販売店を訪問した。
それまで、同じ地域を担当していた先輩たちが、行ったこともないような町の販売店にもお邪魔する。
「おたくの会社の社員が来たのは初めてだよ」
そう言って、驚いた顔で店主達が迎えてくれた。
それは、そうする必要があったからだ。
社会に出て間もない時は、自分には何の力もない。
多額の販売促進費を持っているわけでもなければ、相手が喜びそうな市場の情報もない。
人間関係もなければ、巧みな話術もない。
あるのは時間と体力。
そして、会社から支給されているガソリンカード。
一生懸命やっているのだが、なかなかノルマの売上げに届かない。
だからこそ、一軒でも多く回る必要があった。
そんな地道な努力の甲斐があり、数字はなんとか目標を超えた。
月に一度の営業会議の席。
並み居る先輩たちの前。
「今まで誰も行かなかったようなお店も開拓して、数字も伸びた。よくやっている」
支店長は、こう言って労ってくれた。
そして、返す刀で「どう思う、サトウ?」
サトウさんは、僕よりも1期上の先輩。
僕と歳はさほど離れていないのに、堅調な売上げを示している。
サトウさんは、こう切り返す。
「僕は大所(おおどころ)で勝負するタイプですから」
この言葉を聞いた時、サトウさんが僕を強く意識していること。
つまり、対抗意識を持っていることを感じると共に、器の小さい人だと想った。
コマネズミのように働くのもいいけど、自分はもっと効率よくやってみせますよという台詞。
同格の人で、普通の神経の持ち主が相手だったら、大げんかになるところだ。
歳をとれば、人間関係ができる。
実績ができれば、大きな市場を任され、使える経費も増える。
人間の幅が出て、情報も豊富となれば、大手販売店の社長も一目置く。
そうなると、大所で勝負できるようになる。
だが「大所で勝負するタイプ」という筋道は間違っている。
それは「ビッグな俺を、もっとうまく使ってくださいよ」
と言っている青二才に等しい。
(次回 「キンタマをにぎる」)
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