フィルム・ノー・ダメージ これは微動だにせず 向き合う映画
電気ビルのホール
玄関で彼女を待っていた。
チケットを買った2ヶ月前には、仲が良かったのだが
最近はほとんど音信不通。
仕方ないな、1人で見るか
そう思って席へ戻ろうとした時、柱の陰で
ここにいるんですけど・・
と言わんばかりにこちらを見た。
30年前、誰と来たかを思い出しながら、開演を待つ。
今日となりにいるのは、見知らぬおじさん二人組。
向こうからみれば、見知らぬおじさん一人きり。ということになる。
盗撮は犯罪です。
繰り返し、手を変え品を変え、告知が流れる。
映画の予告編がつづく。
「そして、父になる」
はぜひ観たいと思う。
それにしても、もう開演時間をとうに過ぎているが、なかなか始まらない。
じりじりじり・・
わざと残したのか、30年前の時点でわざとなのか、
古いフィルムですよということを知らせる、ノイズが流れると
ようやく、30年前の世界へ回帰が始まる。
阿川佐和子のベストセラー「聞く力」でデーモン木暮が語っているのだが、ヘヴィメタでボーカルが高い声で歌うのは、低い声では演奏に埋没して聞こえないからだ。
それは、ロックでも同じこと。
低い声のボーカリストでは、スピード感が生まれない。
シャウトがないロックは、想像しづらい。
ロックは速く、高い必要があるのだ。
小田和正の声が高いのは、誰にも明らかだが、
桜井和寿の声も、かなり高い。
しかも、その高さで2時間歌うから、大丈夫なのかと観ていて心配になる。
尾崎豊も高かったし、フレディ・マーキュリーも高かった。
そして、27歳の元春
高い、速い
そして太い
「誰も上手いねと言ってくれなかった」
と元春は言うが、それは謙遜だ。
ハードランドは、上手くてスゴイ。
そこに、暴力的な自信に溢れた表情。
タイトで汗のグラデーションに滲むスーツ。
間違いなく、元春は一世一代のアイドル・ロック・スターだったな。
30年を超えて、ずっと今でもファンでいる理由を思い出した。
日頃は好青年
しかし、ステージに上がると豹変、すごさを見せつける。
その落差を当時、元春が言っていた言葉は
Hip & Cool
時に熱く、しかし冷静に。
この言葉をなぞろうと、ずいぶん努力をしたと思う。
村上龍がよく「現代の若者には、成功のモデルがいない」
といったことを言う。
こうして、30年前、元春のアーカイブを目にした時、確かにそうかも知れないと初めて納得した。
映画館に来る前は、手拍子を打ちたい。いや一緒に歌いたい。
そんなことを考えていた。
だが、ぴくりとも動けなかった。
この映画は、正座こそしないものの、微動だにせず、真剣に聞き入るものだ。
歌ったり、騒いだりするのは、現在の元春ライブに行けばいい。
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