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2013年12月19日 (木)

「ひとつ食べませんか?」と彼女は言った。

岡山から乗ってきた彼女。
名前を聞く理由はないので、名前は知らない。
彼女はデリケートではなくて、放送局狙い。
東京の大学に通っているが、この日は岡山の放送局を受けた帰りだという。

お互いがんばりましょう

互いの健闘を誓い合い、すぐに別れた・・
と言いたいところだが、岡山から東京は4時間はかかる。
互いに漢字の自習に戻っていた。

しばらくして、車内販売のワゴンが通りかかり、彼女はお姉さんを呼び止める。
ジュースとサンドイッチを買った。

りっちか~

感想は博多弁だ。

僕はと言うと、割高感のあるワゴンで何か買うなんてもってのほか。
当時はポカリスエットもなく、水分を摂る必要性を説く人はいない時代。
博多駅で缶ジュースひとつ買ってきていない。
ペットボトル飲料は、まだない。

彼女は漢字問題集を閉じて、お手ふきで手を拭いてから、サンドイッチを1つずつ小さな口に放り込む。
いや、口の大きさは見ていないが、少女のあどけなさが残る慎ましい仕草ということだ。

もちろん、サンドイッチをガン見したりはしない。
それは最も忌み嫌う行為だ。

全然興味有りませんよ。
そんな空気を発散させて、
□□錯誤
試行と漢字問題集に書き込んでいた。

すると、彼女が
「ひとつ、食べませんか?」
と僕にサンドイッチを勧めてくれた。


え゛なんで?
俺、物欲しそうに見えたのか?

1.5秒迷ったが、迷ったことはおくびに出さず
じゃいただきます
と手を出した。

子供の頃、友だちの家がうどん屋さんで
「うどん食べていき」
と言ってもらったのを頑なに拒んで、関係が悪化したことがある。

世の中には誘拐が流行っていて、親から「人からタダでものをもらってはいけない」と言われていたのを誤解したのだ。

恐らく、人からタダでものをもらうのは、これが初めてかも知れない。
子供の頃、人の厚意を無にして気を悪くさせた反省を経て、僕は大人になったのだ。
ここは、厚意を受けることが、非礼を避ける意味で正しい。

1.5秒はこの計算に要した時間だ。

顔かたちは覚えていないが、背格好とことばの調子だけは忘れない。
それは高校1年生の時、となりに座っていた憧れの娘に似ていた。

サンドイッチ1箱はたいした量ではないが、1つくらい手伝ってもらうのが適量ということだのかな。
いや、もしかしたら、男の僕が倍返しでアイスでも買って、ごちそうするのが筋だったか。
数十年たった今、そんなことを思い出す僕は平和だ。

11:42
新神戸発 D席には誰も乗ってこない。
六甲トンネルを出れば、ワゴンが来るはず。
アイスコーヒーとスジャータアイスを買おう。

N700Aに乗りたい!品川-博多の旅

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