こけちゃいましたから22年、三村さんの靴は脱げなくなった。
「こけちゃいました」
マラソン選手谷口浩美は言った。
1992年夏、バルセロナ五輪でのできごとだ。
谷口はレース中盤、給水所で靴をふまれて転倒。
その時、靴が脱げてしまった。
彼は一瞬裸足で走ろうかと思ったものの、思い直して靴をとりに行く。
そのタイムロスで先頭集団から置いていかれてしまう。
終盤、盛り返して8位入賞したが、靴が脱げなければ、メダルの可能性もあった。
森下広一が銀メダルをとったこともあり、谷口への同情の世論はさほど高まることがなかった。
インターネットはまだ登場2年前。
ニフティなどのパソコン通信には掲示板があったが、利用者は限定的。
靴を踏んだ選手の実名が世を賑わすこともなかった。
レース後、靴の作者である三村仁司さん(当時はasics)のところにきた谷口は言った。
脱げる靴をつくっちゃいけませんよ
あれから22年、どうやら脱げない靴が完成したようだ。
長野マラソンは前後に2枚、ナンバーカードをつける。
背番号は後ろのランナーから見えている。
出場者一覧からナンバーで引けば、氏名もわかる。
心なしか、ゆるくなった靴。
これが練習ならば、靴を脱いで紐を締め直すところだ。
だが、もうランナーは動き出している。
ここで立ち止まれば、追突を誘発するだろう。
仕方ない、このまま走り出そう。
結果的に踏まれた側の靴は不調になることもなかったのが幸いだ。
しかし、レース全体を見れば、大きな影響があった。
それは、レース1週間後に気づくことになる。
8:30号砲
長野マラソンは、後ろのブロックでも号砲が聞こえる。
4分ほど歩いていると、スタートラインのアーチが見えてきた。
それと共に緊張が高まる。
いよいよレースが始まるという胸の高鳴りではない。
手袋をしていると、miCoach SMART RUN(MC)の画面が反応しないことへの緊張だ。
冬場、スマホの画面を使うためには、スマホ対応手袋が売られている。
しかし、マラソン業界ではまだ、タッチパネルの時計は想定されていない。
タッチパネルが押せるランニング・グローブは2014年4月現在、市場にない。
練習では、手袋の右手人差し指をぺろっとなめてからタップしていた。
今日もそうするか・・
と思っていたが、とっさに右手袋を外していた。
人は緊迫した状況下、より確実な方法をとるようだ。
スタートをタップ
だが、画面は反応しない。
落ち着いて、もう1度。
2度目のタップで計測が始まった。
垂角45度が開けていることもあり、今日は電源を入れてすぐGPSがつかまった。
通常モードでゴールまで走りきることができれば、マラソン本番で心拍数がどのように推移するかという貴重なデータがとれるはずだ。
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