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2014年10月 9日 (木)

水がはねている 奥の方が特に

爪が伸びている 親指が特に
と歌ったのは井上陽水だが

今日の話は
水がはねている 奥の方が特に
という話しだ。


中年サラリーマンのサトウさんは、会社の厚意にとても感謝していた。
以前勤めていた会社では、大便器は和式。
お客様用トイレに1機 洋式があるだけだった。
それも、普通の水洗だ。
地方都市に行けば、今でも下水道整備率は低い。
レバーをひねれば、ごーっと水が流れるだけでもありがたいことだが、どうしてもサトウさんはお尻だって洗ってくれるトイレを願わずにいられない。
それは彼が、お尻にまつわるある持病を抱えていたからだ。

そんなサトウさんに転機が訪れる。
縁あって仕事を変わった彼は、都心の一等地に事務所を構える会社に移った。
そこの会社は、なんとすべてのトイレが洋式、しかもウォシュレットだったのだ。

前にいた会社では、たった一つの洋式トイレに行くために階段を駆け上り、使用中の時は空き待ちをした。
それが今や、ウォシュレット入り放題。
社員の健康面にここまで気を使ってくれる会社。
サトウさんは、個室で腰掛ける度にそっと社長に手を合わさずにはいられなかった。

そんなサトウさんにある日、異変が起きる。

いつものように、朝の定期便を終えた彼は、自席に戻り仕事を始めた。
その時だ。

お尻がひんやりするな・・

情けない違和感が彼を襲う。
周囲に悟られぬよう、少し尻を浮かして具合を確かめてみる。
特に問題はなさそうだ。

よかった。気のせいかな。

ところが、数日後、再びサトウさんを「ひんやり」が襲う。
1度ならず2度までも。
サトウさんは血の気が引いた。
自覚なきままに加齢が進み、自然とおもらしをしてしまうようになってしまったのか。

トイレから戻ったばかりだった彼は、コピー取りを装うため、A4の紙を1枚手にして再び個室へ急ぐ。

個室に入り、いつもの姿勢をとると、そっと手を当ててみる。
異常はない。
ベリー安堵。
つづいて、お尻全体をなでてみる。
すると、なんだかふやけたようなしっとり感があった。

お尻ひんやりの理由がわかったのは、それからしばらく経った日のことだ。
その日も個室に入ったサトウさんは、あることに気づく。

水がはねている 奥の方が特に

そこはこれから腰をかけた場合、背中寄りの便座。
ウォシュレットのノズルが登場するあたりだ。

誰か、顔を洗ったのか?

いや、ここは平成の世。東京のど真ん中。
江戸時代からタイムスリップした人じゃあるまいし、水が出るからと言ってトイレで顔を洗う人は居まい。

さらに、数日後、謎は完全に解ける。

その日、茶色い水滴が跳ねていた。

どうみても、それは・・・

持病があるサトウさんには、察しが付いた。
誰かが、水流に合わせて尻を振っているのだ。

しかし、座って見てそれは察しが違うとわかる。
尻を振ったくらいでは、水は便座に飛び散らない。
飛び散ったとしても、せいぜい2~3滴だろう。

どうやったらこうなるのか?
そうか、尻を振りながら少し腰を浮かせるんだな。
そこまでしないと洗えないほど、広範囲に汚れるとは、いったいどんな・・・

中腰になって、尻を振っている男性の姿、
考えたくない。
「水が飛び散っています!尻を浮かさないで!」
総務に言って、貼り紙を貼らせようか。

サトウさんは、そこではっと我に返った。
いろいろな体位をとって、確かめようかと思ったけどやめた。
自分にはもっと、やるべきことがあるはずだ。
他人の尻ぬぐいをしている場合ではない。

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