マラソンの道に入って10年 初めてこけちゃいました
それはあっけないほど、一瞬の出来事だった。
その日、東京は快晴。
血液の通り道を作るために、毛細血管を呼び覚ますための
練習「120分LSD」をおこなっていた。
マラソンをやっていない人のために解説すると、LSDはLong Slow Distanceの略。
長い距離をゆっくりと走る。
この日も、よいフォームを心がけ、心拍数は140台におさえて走り続けていた。
累積ランニング時間は119分をさしている。
いい練習ができたな。
終わったら、コンビニに寄っておにぎりを買って食べよう。
その時、用水路沿いの道を走っていた。
せせらぎを聞いて走るのは心地よい。
水の流れに沿って走るのは気持ちいい。
なぜならば、水が流れる方向は下り坂だからだ。
コースはレンガを敷き詰めたエリアに入った。
地ならしをしっかりしなかった、いわゆる手抜き工事によく見られるようにところどころ、レンガが浮いている。
危ないな。
せせらぎを聞くよりも、安全に流れから離れた方がいいか・・
そう考えはしたが、2時間近く走ってきたせいで、意識レベルが低下していた。
左脚がブロックにひっかかったかと思うと、地べたを這っていた。
こけた?
マラソンを始めて10年弱。
走っていて転倒したことはない。
何度かこけそうになったことはあったが、とっさの足運びで持ち直していた。
だが、自分は路上に横たわっている。
すぐに動くのは危ない。
幸い、周囲には道路上の凶器「自転車」は走っていない。
通行人が1人か2人いたから「大丈夫ですか?」と声がかかるだろう。
大丈夫ですと応えよう。
でも本当に大丈夫か?
意識は確かだ。
それでは少しずつ動かしてみよう。
飛んでしまったサングラスは、右側のレンズが外れ落ちている。
まずは、レンズを傷めないよう慎重にレンズを拾う。
どうやら、手は動くようだ。
片方、レンズが外れてしまったサングラスをかけると海賊になってしまうので、フレームも拾ってウエストポーチに入れる。
給水や小銭を入れるためにつけているウエストポーチが、転倒した時の用品回収袋に使えるとは。
新発見だ。
どのマラソン専門書にも書いていないだろう。
ブレスサーモ手袋右手の小指が破れていて、そこから血が吹き出ている。
小指が曲がらない。
折れたのか?
骨折をしたことがないので、折れた感触を知らない。
ただ、骨折したら激痛が走ると聞く。
少なくとも、痛みはない。
もしかすると、時間が経つにつれて痛むのか。
そろそろ誰かから「大丈夫ですか?」と声がかかってもよさそうなものだが、かからない。
山口県の盆地に住んでいた子どもの頃、自転車でこけた時、真っ先にとった行動は
「誰かに見られなかっただろうか?」
とあたりをきょろきょろ見回すことだった。
誰にも見られていないことを確認すると、涙があふれた。
でも、あとで病院に行くと、先生がその一部始終を実況中継してくれた。
休憩中に病院の屋上から見ていたらしい。
「誰にも見られとらんってわかったら、泣けてきたろ?」
恥ずかしかったが、その暖かさが嬉しかった。
だが、ここは東京。
誰からも声はかからない。
救急搬送を要するような状況ではないので、よけいな気遣いがないことは、ありがたい。
つづく
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