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2014年12月 5日 (金)

かつて、佐野元春も悩んだ「Visitors問題」

スローな曲では「座ってください」と言ってくれるのを今か今かと待っていたが、なかなかその曲がやってこない。
前奏が始まった後、ようやく手を上げて「座って」というポーズをとってくれた時は、本当に嬉しかった。

相撲の枡席を独り占めするくらいの広さがあればいいのだが、コンサートホールで一人に割り当てられるスペースには限りがある。
ステップを踏んでヨコに動けば、となりの人の足を踏むし、大きく広げて手を打てば、となりの人をひっぱたいてしまう。
実際、後ろに座っている人から何度か頭を叩かれた。

いつの頃からか、元春のライブで腕を突き上げるのをやめた。
左利きの僕は「さむでいっ」と拳を突き上げると、となりの拳とぶつかってしまうからだ。

COYOTE BAND時代のナンバーを9曲つづけた後は新コーナー。

ここで元春は、来年ニューアルバムを発表することに言及する。
もちろん、拍手と歓声が起こる。
だが、どこか予定調和だ。
聴衆はあまり驚いていないように映る。
なぜならば、このツアーで既に複数会場に駆けつけた者がいる。
彼らにとって、それは既知のことだ。
そうでなくても、インターネットには各会場のMC内容を記した記事が出ている。
特にネタバレを気にしない人は、そういう情報を事前にチェックしているのだ。

「THE SUN」はレーベルを移ったこともあり前作から5年空いた。
「COYOTE」はそこから3年。
「ZOOEY」はそこから6年。

それらに較べると、中2年というのは早い。

「君がいなくちゃ」
♪君がいなくちゃ
を繰り返すフレーズ。
まるで、60年代グループサウンズのようだ。

「なにが君がいなくちゃだ?子どもみたいなこと言って。そう思っている人がいるんじゃない?」
思った!
素直に声をかけた。

その後、彼が明かすところによると、これは16歳の時に書いた曲。
発売されていないが、最近聴き直して、出すことにしたという。
回帰だろうが、懐古だろうが、そんなの全然関係ない。
元春がこれと思って出す曲は、なんだって歓迎だ。

「優しい闇」
つづいて新曲。
手拍子をとらずじっくり耳を傾けていたが、ワンコーラス終わる頃、魂に語りかけられていることに気づき、体が動きだしていた。

元春は「Heartbeat」の延長線にあるアルバムを出してくれるのではないか。
そんな期待が頭をもたげた。

元春の歴史には「Visitors問題」というものがある。
「Back to the street」「Heartbeat」「SOME DAY」と聴いてきたファンが「Visitors」のあまりの変わりように、ついていけずに離れてしまったことを言う。
元春もこのことを一時期は随分、気に病んでいたようだ。

だが、時を経て「Visitors」が実は時代を先取りしすぎていたことが明らかになると、その先進性と当時の酷評のギャップが伝説として語られた。
「Visitors問題」は「Visitors伝説」になった。

だが、そこには語られていないことがる。
「Visitors問題」で離れていったファンは、前作「SOME DAY」と"変わった"ことに失望したのである。
失望の前提には支持がある。
前作「SOME DAY」を支持しているからこそ、そのテーストで新たな名曲を待っていた。
しかし、出てきたものは期待とは違っていたということだ。

僕はVisitorsのレコードを買って来て針を落とした時、喜んだ。
「あぁよかった」
それは、その前に横たわる「SOME DAY」問題があったからだ。

つづく

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